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うたたね♪日記

元・絵本カフェ詩多音オーナーのブログです。 現在は、絵本をつなぐ活動の  心 色~ココカラ~ メンバーとして活躍中!!!

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『MIMI』第8話・雲野詩子

MIMI  -ミミと美海と滝さんについて-


      第8話

いつの間にか翔君は滝氏の事を「レンさん」と呼んでいた。

それだけじゃない。二週に一度は滝邸に遊びに来るようになった。

ここ数ヶ月ちょっとの間にずいぶんと仲良くなったらしい。

先月来た時は夜中まで二人で飲んで(滝さんは途中からお茶を飲んでいたが)

結局泊まって行った。

困った事だ。

泊まったり家で飲んだりの事を言っているのでは無い。

翔君は滝氏に、私の学歴職歴、もしかすると恋愛歴まで話しているようなのだ。

酔っぱらいの翔君に注意しても、

翔君は基本、寝たら忘れるタイプなので毎回毎回


「でね、レンさん美海ちゃんはさ、ウチの愛実の面倒をね、

共働きで忙しい両親の代わりに見てた訳よ・・・」

とか言って語り出す。


「19の時の彼と別れてからは仕事に生きるようになって・・・」


なんて言い出したときは背中に冷や汗をかいて思わず翔君の口を塞いだ。

私の居ない所で飲んでいる時にどんな話をしているかが恐ろしい。

たとえ翔君が話した事をすっかり忘れてしまったとしても、

聞いている滝氏は酔い過ぎて記憶を失う事はまず無い。

困った事だ。まったく。

大体、翔君に出会ったのは私が22歳の時で、

十代の時の話はみんな愛実と日向からの受け売りだ。

なのになぜそんなに見て来たかのように話せるんだと、

腹を立てた所で酔った翔君には通じない。


「レンさんの部屋の模様替えするんだって?買い出し行くなら手伝うよ」


買い出しより模様替え自体を手伝って欲しい。と思ったが、

翔君の気持ちを優先して買い出しを手伝ってもらう事にした。


初冬

簡単なインテリアの滝氏の部屋は、私の目から見てとても寒々しく見えたので、

せめてラグだけでも替えたいと思い


「本格的に寒くなる前にもう少し暖かそうなお部屋に模様替えしませんか?」


と彼に提案した。


「美海さんはインテリアショプの腕の良いコーディネーターだったと聞いたよ」


翔君!余計な事を!・・・いつもいつも・・・


「うるさくならない程度なら何をしても構わないから、

 任せても良いかな?僕、インテリアってよくわからないんだ。

 どうしたいとかも無いし。

 今有る家具なんかはかおるさんが揃えてくれたんだ。

 えっ?色の希望?うーん・・・

 落ち着いた色かな?とりあえず居心地が良いと良いな」


「はぁ、そうですか(好きにさせてもらいます)」


と、予想通り快諾。

そんな話をした翌日に滝氏と翔君は会う約束だったため、

二人にとって格好の話題になったらしい。


「じゃぁ、日曜日にね」


買い出しの約束を取り付けて翔君は電話を切った。

腕が良いかどうかは別にして、経験は活かそうと思う。

それなりに。


当日。妹の愛実も付いて来た。


「どう?おねーちゃん滝さんとしんてんあった?」


愛実はいつもそればかりだ。もちろん


「何もないよ」


と答える。えーほんとにぃーと言いながらニヤニヤしている。

その様子があまりにもいつも通りだったので、

次の言葉の意味を理解するのに少し時間がかかった。


「今からぁ、半年以内におねーちゃんと滝さんができちゃった婚でもしてくれれば、

 うちの子とおねーちゃんの子が同級生になれるのに」


いやいや、でき婚ってちょっと・・・


「え?」


うちの子?


「愛実、・・・赤ちゃんいるの?」


そう言ってお腹を指差した。すると愛実は自分のお腹にそっと手のひらを乗せて、

嬉しそうに笑った。


「うん、もうすぐ三ヶ月」

「おめでとう!」

「うん、ありがとう。・・・やぁだぁ。おねーちゃんのそんな嬉しそうな顔久々見た。

 あはは!会いに来て良かった!」

「翔君もおめでとう」

「うん、ありがと美海ちゃん。二週間前にわかったんだ。

 最近愛実ずっと体調あんまり良く無くて、

 寒くなって来たから風邪かなとも思ったんだけど、

 そういう悪さじゃないって言って、そう言えば生理が止まってるかもって話になって、

 産婦人科に行ったら赤ちゃんがいるって・・・おれもう嬉しくて。

 こないだ電話したときもすげぇ言いたかったんだけど、

 愛実がどうしても会って言いたいっていうからすっごい我慢した。

 父親願望的なのそんな強く無かったから、できない事も全然気にしてなかったし、

 ずっと愛実と二人でも良いと思ってたんだけど、

 おれ、お父さんになるんだなって思ったら、もう嬉しくて・・・」


翔君泣きそうだ。こんな家具屋のカーテン売り場で・・・

もうちょっと場所を考えても良さそうなのに。

愛実が言うには、本当は買い物の後に滝邸に帰って、

一緒に食事をしている時に発表する予定だったらしいのだが、

早く言いたくてしょうがないのを二週間も我慢してたので、

もう待てなかったのだと。


「なぜ滝さん家で食事?」

「翔がそれが良いって。滝さんもOKしてくれたらしいし。

 久々におねーちゃんの手料理食べたい」


・・・滝さん、今朝会った時は何も言ってくれなかったのに。

口止めされてたのか、わざと言わなかったのか、

どちらにしても、なんとなく悔しい。

しかし、滝氏とできちゃった婚って・・・

愛実は想像力が豊かすぎる。(まぁその能力によって翔君との結婚に至ったんだろう)

できちゃうどころか、私は彼に触った事も無い。

結婚なんて私には想像ができない。

とりあえず、今の生活を守りたい。少しでも長く。


「あとは、何を買う?」


大きなカートの上にテーブルクロスと毛足の長いフワフワのライトブラウンのラグ。

その上にカーテンをぽんぽんと乗せながら翔君が尋ねる。


「あとはテレビ台とソファーにかける布。

 スゥェード調のダルトーンのピンクベージュにしたいんだよね」

「ふーん。おれはね肘掛け椅子を二つと、カウチソファーを一つ買う予定」

「え?翔君の所も模様替えすんの?」

「ちがうちがう、レンさんの部屋に置く用だよ。リビングに。

 だって、あの二人掛けのソファーだけだと、

 おれ達が遊びに行くとレンさん床に座る事になるだろ。

 大丈夫。レンさんOKしてくれたから。

 だからそれも美海ちゃん選んでよ」


えぇぇぇ・・・もう、滝さん、何でもOKしたらダメだよ!

今、書斎に居るだろう滝氏に念を送っておいた。

悪寒を感じている事を願う。

そんなわけで家具屋に行った翌日から数日間、

大幅に予定外な模様替えを余儀なくされた。


「手伝えなくてごめんね」


と滝氏は言っていたが、まったく申し訳無さそうな顔ではなく、

どちらかと言うと嬉しそうに見えたのは、私の被害妄想だろうか?

でも、まぁ、数日かけて試行錯誤の上仕上がった部屋を、

大変気に入ってくれたので良しとしよう。

お礼に、と小さな花束を買って来てくれた。


「翔君から、花が好きだと聞いたから」


だそう。

翔君、グッジョブ。(たまには)



つづく。。。

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