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うたたね♪日記

元・絵本カフェ詩多音オーナーのブログです。 現在は、絵本をつなぐ活動の  心 色~ココカラ~ メンバーとして活躍中!!!

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『MIMI』第41話・雲野詩子

MIMI   -ミミと美海と滝さんについて-


      第41話



イライラする。

私の中の、なんだか『柵』の様なものが

ガタンッと音を立てて外れる。

その中にいた、黒いものがゆっくりと流れ出る。

首を傾げるように左右に頭を振って


「あぁ、そう」


と声が出た。

彼女がこちらを振り返る。


「何か?」


もう、睨まれたって怖くない。そんなの知らない。

一言、文句を。


「ええ、ああそうだ。ジコチューって言うんだ。

 あなたみたいな人。

 自己中心的とか自分勝手とか?

 ふっ、良いと思います。


 人の事考えずに自分の思うように行動できるのは。

 本人にとってはとても良い人生だと思います。

 で?私はきれいで、本当は優しい心を持っていて、

 いつもこんなに一生懸命に頑張ってるの。

 わざとじゃないのよ。

 だから私はわるくないでしょ?って?

 はは、10代20代の未熟さ故の無知で純粋な過ちなら

 『若気の至り』と恥ずかしかった過去の思い出にもなるでしょうが、

 あなたの場合、ずっとそのままでしょうね。

 というより、是非その生き方を変えないで欲しいと思います。

 私には決してマネ出来ない生き方ですから」


一言のはずが、たくさん出て来てしまった。


「あなたっっ・・・何なの!?意味が分からないっ・・・」


激怒するかと思っていたのに、意外にも狼狽え戸惑っている。

それでも言い返すあたりさすがだ。


「・・・いや、失礼。分かっていただかなくて結構です。

 たっ、いや、れんたろさん大変申し訳ありませんでした。

 つい心の声が出てしまって。

 どうぞ話しの続きを。黙って立ってますから」


??

滝氏が下を向いている。

怒ったのだろうか?

私の彼女に対する失礼な言葉に。


「あの・・・」


すみませんと言いかけて、やめた。

滝氏が、お腹を抱えた。怒っているのではない。

笑っている。爆笑だ。


「はははははっはははっはっ・・・くるしっ」


彼の笑い声にこっちを睨んでいた曵汐さんも彼の方を見る。


「笑っている場合ではありませんよっ!

 ほらっちゃんと立って、深呼吸して下さい」


全く、どんな笑いのツボしてるんだこの人は。

笑える所なんてひとつも無かったのに。


曳汐さんが

より怒ってしまうのではないかと心配したが、

彼女は何も言わない。

滝氏の方を向いてしまった彼女がどんな顔で、

どんな気持ちで彼を見ているのか、

私には分からなかった。


「はあ、おかしいね。ほんとに。

 曳汐さん、僕はあの時の事を恨んだり怒ったりしてないよ。

 許すも何も、あなたがあなたの人生を思うように生きた。

 その結果でしかない。

 許して欲しいと言うなら、もう、ずっと前から

 あなたは許されているんだよ。

 僕の事はもう気にしないで。

 昔の事を思い出してる暇はお互いないんじゃないかな?

 僕には無いんだ。

 もう、僕の心の中にはこの人しかいないから」


えぇっ私ですか!?いや、ちがうちがう。

今私滝さんの奥さんの設定だった。

びっくりした。

思わずときめいて、顔が赤くなってしまった。


「・・・そうね」


「元気でね」


「えぇ、漣太朗も」


彼女は滝氏に背を向けた。

こちらを振り返った彼女は涙ぐんでいた。

少し可哀想に見えた。

しかしそれよりも、

ホッとしたような晴れやかな案著を感じているように思えた。

そう思ったのはきっと、

滝氏が彼女の背中を笑って見送っていたからだ。

彼女は振り返らず、私を横目で見て、通り過ぎた。

その目には敵意も怒りも戸惑いも感じられなかった。




「ごめんね美海さん。変な事に巻き込んでしまって」


彼女が見えなくなると滝氏はそっと言った。


「ええ、なんか、すごい巻き込み事故・・・」


おおっと


「いえ、こちらこそすみません失礼な事を言ってしまって」


しまったポロッと本音が先に出てしまった。

滝氏が笑う。いつもの笑い方だった。


「はは、本当にすごい巻き込み事故だったね」


いやいや、巻き込んだのはあなたですよ!


「まぁ私が自分で突入したんですけどね」不本意ながら。

あぁいう時は親切心を働かせてはいけない。

やはり逃げるべきだったと後悔する。


「うん」


思い出したように滝氏が笑う。


「うんって、滝さんが出て来ないから!」


「はは、そうだったね。ごめんね」


全く。

そう言えば滝氏は薄着のままだ。

早く中に入ってもらわないと。


「美海さん、さっきの・・・」


「それより、中に入りましょう滝さん。

 そんな薄着で長く外に出てたらまた風邪引きます」


「・・・うん」


ん?何か今大切な事を言いそうな雰囲気だったのに、

思いっきり打ち切ってしまった。

でもとにかく滝氏を中に押し込んで、

体を温めてもらおうとお茶を淹れた。


「はい。お茶でも飲んで温まって下さい」


「ありがとう」


湯呑みを受け取る滝氏に聞いた。


「そう言えば、何か言いかけてませんでした?」


「うん」


少し考えてから滝氏は言葉を繋ぐ。


「さっき言った事なんだけど」


「はい、どれでしょう?」


「僕が美海さんに・・・」


その時、ザッと地面に雨の打つ音がして

私は慌てて窓の外を見る。


「あっ!雨!すみません滝さん洗濯物がっ!

 先に取り込んできます。また食事の時にでも話しましょう」


「そうだね、またね」


なんて、タイミングの悪い雨なんだ。

きっと「また食事の時」には聞けないように思われる。

昼から雨とは聞いていたけど、今じゃなくても良いじゃないか。

と思いながら書斎から母屋まで走る。

途中、木に立てかけっぱなしていた熊手を拾って。



~つづく~


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