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うたたね♪日記

元・絵本カフェ詩多音オーナーのブログです。 現在は、絵本をつなぐ活動の  心 色~ココカラ~ メンバーとして活躍中!!!

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『MIMI』第五話。雲野詩子

MIMI  -ミミと美海と滝さんについて-


     第五話

今日の夜電話するからよろしく。

とのメールが入った。翔君からだ。

翔君、というのは義理の弟で、妹の愛実の旦那さんである。

時枝翔太(ときえだしょうた)という。

二年前、愛実が21歳の時に結婚した。

翔君は当時28歳で今年三十路をむかえる。

年上なのにオトウトってのも不思議だけど、

妹のダンナと実の兄弟のように仲良くなっている事にも時々不思議に思う。

電話の内容は、毎年恒例の愛実の誕生日プレゼントを買いに行く。

事についてである。

なぜか毎年一緒に買いに行くのだ。
(買う物は別々なのだが、被らないためだろうか?)

愛実の誕生日の一ヶ月前になると、当たり前の様に翔君から電話があり、

何時買いに行くかの相談をする。

昨年までは私がシフト制の不規則な仕事をしていたのでなかなか予定が合わず、

日時を決めるのに苦労したが、今年は難なく決まりそうだ。

翔君は滝邸に越して来た時もすぐに電話をくれた。

日向と愛実は昔から双子のように仲が良く、

見た目や体形、雰囲気もどことなく似ている。

学生の頃は三人でいると三姉妹とよく間違えられた。

ちなみに日向は弟と二人兄弟で姉妹はいない。

何にしても面倒見の良い日向と甘えたがりの愛実は、

なんだかピッタリだなといつも思う。

そのつながりでもちろん翔君も日向と仲が良く、

日向から時枝夫妻に私の情報が流れて行ったのだ。

まぁ、いつも筒抜けである。



「大丈夫なのか?ヒナがすごい心配してたぞ。

 愛実はおねーちゃん家政婦向いてそうとか呑気な事言ってるけど、

 おれもヒナと同感だね。二十代の女の子が三十代の男と、

 付き合っても無いのに同居なんて危ないだろ。そいつがゲイなら話は別だけど。

 美海ちゃんは自分がフツーに若くてかわいい女の子なんだって自覚が無さ過ぎなんだよ」



・・・云々。

ほぼ説教だったけど、やはり翔君の心配してくれる気持ちは嬉しかった。

愛実は本当にいい人と結婚できて幸せだね。

茶化そうというのではなくて、おもわず言ってしまった。


「今はそう言う話じゃ無いだろ」


と言ってまたおこられた。


「ごめん、でも滝さんはゲイじゃないけどマトモでちゃんとした人だから、

 心配いらないと思うよ」


と何の根拠も無かったが翔君を安心させるために一応言っておいた。

美海ちゃんがそう言うならきっと信用できる人なんだろうけど、

何かあったらすぐに連絡してこいよ。

そう言って電話を切った。

本当に良い人だと心が温かくなった。

素敵な義弟がいる事を誇らしく思った。


夜は大体、十時前に滝さんが帰って来て、

十一時半に自分の部屋に戻るので出来れば、

九時前後に電話をくれると嬉しいとのメールを翔君に返した。

ところがその日に限って滝氏が早く帰って来た。

面接の時に、お風呂は共同で使うという事に決まったので、

私はいつも二階の広いお風呂に滝氏の帰って来るずいぶん前に沸かして入る。

私は雇い主である滝さんより先に入れないと一応、

一歩下がってみたのだが、滝氏の気遣いにより彼の帰宅前に入っておくことになった。


「四十前のおじさんの後のお風呂なんて入りたく無いでしょ?僕だってやだよ」


との事だった。

彼が自分で自分の事をおじさんと言った時吹き出しそうになったが、

奇跡的に堪えることができた。

私はお風呂に入る時にミントの精油を数滴落として入るのが習慣で、

後からの方がそういった所も気兼ねなく入れるのにな、

と思ったためその事も相談してみると


「僕もミントのお風呂に入りたい」


と快くミントを入れる許可が得られた。

そのため、やはり私が先にお風呂に入る事に決まったのだ。

その日も夕食の準備を済ませお風呂に入り、明日の朝の用意をしつつ、

翔君からの電話を待っていた。

九時前になりそろそろかな。

と思っていた所に滝氏が帰宅したのだ。

おかえりなさい。言ってすぐにお茶を淹れた。

彼はスーツの上着を脱ぎながら、ありがとう。

と言ってお茶を一口飲む。

座る事無くバックと上着を持って寝室へ行きお風呂の用意をして出て来た。


「もう入った?」


と私に尋ねる。


「はい」


と答えると、ん、と頷いてお風呂に行った。

滝氏がお風呂に入ってすぐに翔君に時間変更のメールをすれば良かったのだが、

翔君の電話の事をすっかり忘れ、夕食の準備に取りかかってしまった。

そしてお風呂の方からドライヤーの音が聞こえて、

そろそろ出て来るかなという時に携帯が鳴った。

あ、と思ってとっさに電話を取った。


「もしもし美海ちゃんショウだけど・・・」

「あ、翔君」


と言った瞬間、出て来た滝氏と目が合った。

ドキッとしてすぐに目を離した。


「ごめん、今ちょっと、また後で」


慌てて切った。


「すみませんすぐにごはんつぎますね」

「・・・あ、うん、ありがとう」


変な間があった。

仕事中に(一応)電話に出たのがマズかったのかな、

と反省したが、よく考えるとそんな事で怒るような人では無いように思えた。

実際、怒ってると言うよりは、何か考えてる。という顔だった。

どうぞ。とご飯を滝氏の前に置く。

ふと、滝氏はこちらを見上げて


「さっきの・・・いや、何でも無い。いただきます」


えっえぇぇぇえ・・・何それ気になる!

と心の中で叫んだ。無意識にいつもよりたくさんのまばたきをしながら、


「え、なにか?」

と尋ねた。もちろん答えは


「なんでもないよ」


二回目は笑顔で答えた。

滝氏の笑顔はさらっとしている。

さわやか、という類いではなく、無味無臭というと少し失礼かもしれないが、

暖かくも冷たくも無い。と私はいつも思う。

だからこそ、彼の笑顔は私にとって心地良いのだろう。

その時もその笑顔付きの返事を聞いて、ふーんじゃあいっか。と素直に思った。

そして片付けを終わらせて、滝氏にあいさつをして部屋に戻った。

歯を磨いて、パジャマに着替えてベッドに入った。

何かを忘れているような気はしたが、思い出そうともせずに寝てしまった。

だから次の日の朝、彼から携帯が帰って来た時は驚くを通り過ぎて、

軽くパニックだった。


「昨日台所に置き忘れてたでしょ?先に謝るね、ごめんね。

 昨日の夜、美海さんの携帯すごく鳴ってて僕出たんだ。

 携帯を美海さんの部屋に持って行こうかとも思ったんだけど、

 時間も遅かったからどうかと思って。ごめんね」


心から申し訳無さそうに滝氏が言うので、余計にこちらが心苦しかった。

忘れていた私が悪いのに。

こちらこそ申し訳ありませんでしたと丁寧にお詫びをして、

滝氏が出勤するのを見送った。


お昼過ぎに翔君から電話がかかった。


「あ、美海ちゃん?滝さんって良い人だな!」


第一声がそれだった。

昨夜、7、8回着信を鳴らしてやっと出たと思ったら男の声だった。

町田美海の携帯だと思ったのですが。と言うと相手は、

確かに美海さんのものだと答え、

申し訳ないが彼女が僕の部屋に携帯を置き忘れているのだ、と言う。

ところであなたは誰かと聞かれたので、翔君はオトウトだと答えた。

すると疑っている様子で、オトウト?と聞き返された。

自分は名乗っても無いくせにと翔君は少しムッとして
(相手が誰なのか検討は付いていたが)


「美海ちゃんの妹のダンナなんだから義弟だろ」


と少し強く言ったそうだ。


「あぁ。それは失礼したね。あまり何度も鳴るものだから・・・

 少し誤解をしてしまって。僕は滝と言います。

 美海さんにはいつもお世話になっていて、心から感謝しています」


「あなたが滝さん?お話は伺っています。誤解って・・・

 あ、もしかしてストーカー・・・とか?そっか、そうですよね。あはは。

 ちょっと鳴らし過ぎました。美海ちゃんが出ないから何かあったのかと思って心配して。

 失礼しました」


「いえ・・・気付いた時に美海さんに届けようかとも思ったけど、

 時計を見たら、もう寝ているだろうし部屋に行くのは憚られる時間だったから・・・」


「あぁ、そうでしたか・・・」


という流れで何となくそのまま十分ほど話をして、

明日には美海さんの手元に携帯は戻っているから、

という話で電話を終えたのだと説明してくれた。

十分も何を話したんだと問いたくなったが長くなりそうだったのでやめた。

そうか、滝さん私の事を心配してくれたのかと思うと嬉しかった。

次の日曜日に愛実の誕生日プレゼントを一緒に買いに行く約束をして、

最後に、今度ぜひ滝さんに会いたい。と翔君は言い残した。

えぇっそれは面倒くさい・・・と思ったが、機会があればと答えておいた。

電話を切った後、翔君からの着信履歴を確認してみた。

7、8回の着信と言っていたが、13回だった。

滝氏が電話を取るのも無理は無い。うるさくて眠れなかったことだろう・・・


そして誕生日プレゼントを買いに行った日、

希望通り翔君は滝氏と対面し、滝邸で一緒に食事をして帰った。



~つづく~


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