MIMI -ミミと美海と滝さんについて-
第三話
「え?何なのその少女漫画みたいな展開は。
本当に大丈夫なの?
その人の事よく知りもしないで、共同生活なんて。
ちょっと美海!
あんたもう26なんだからちゃんと考えた方が良いよ。(いろいろ)」
電話の相手は一歳年下の友人、高橋日向(たかはしひなた)。
腐れ縁というのか、幼稚園から高校まで一緒で、
実家は斜め向かい。
卒業して私は家を出て、育った町から離れた。
そのためもうなかなか会う事も無いだろうと思っていたら、
一年後、高校を卒業して大学に進学した彼女は、
なぜか私と同じアパートの別棟に引っ越して来たのだ。
何も知らずに、ゴミ捨て場で再会した時はとても驚いた。
こんな所まで追いかけて来て、そんなに私の事が好き?
という冗談に、
「美海、馬鹿なの?」
と一蹴された。
第一希望の大学に落ちて、
滑り止めの大学がそのアパートの近くなんだとか。
近くだなとは思っていたけどまさかアパートが一緒だなんて、
腐れ縁すぎるわ。としれっと言っていた。
私の方が年上なのにきっと年上だと思った事は無いんだろう。
小さい時から何だかとてもよく面倒を見てもらってたように思う。
口は悪いが(私に対してのみ)美人で気の利く良い娘に育ったな、
としみじみ思う。
電話をかけて来たのも、ある日突然私の部屋に灯りが付かなくなったので
どうしたのかと思ったようだ。
「あーまぁ大丈夫だよ。
悪い人では無さそうだし。
日曜以外ほとんど家にいないし。
日曜でもだいたい一日書斎に籠ってて、
顔会わすのは夜の二時間くらいだし」
「・・・その夜の二時間ってなんなのよ」
神妙な声で尋ねるものだから吹き出してしまった。
「どんな想像したの日向。おもしろい」
真面目に聞いてるのよ!と顔を真っ赤にしているのが目に浮かぶ。
「ごめんごめん、滝さんが帰宅したらまず一杯のお茶を淹れる。
その後、彼がお風呂に入ってる間に食事を温めたり、
準備をして、食べ終わったら片付ける。それだけ」
「食事って、作って置いといたらだめなの?」
「それでも良いって言ってたけどねー。
帰宅しての一杯のお茶だけはどうしても淹れてほしいって言ってたから、
じゃぁまぁついでに食事もって思って。
それに料理って多少雑でも、温かいと美味しく感じたりするじゃない?」
「酔っぱらって、絡まれたりしないの?」
「あ、そう言えば」
「え!!」
「呑まないねー滝さん」
「あ、そう。ちょおっと!変な言い方しないでよ!」
怒っている。だってその反応が楽しくて。とは言はない。
「あはは、そうね。そういえば呑まないわ。
滝さんタバコもやんないしね。
だからきっと見た目年齢若いんだ」
「・・・そうなの?ふーん。まぁ美海が安心して生活できるならいいわ」
「・・・日向ってほんと」
「うるさい」
私の事が好きだね。と言おうとしたら素早いカウンターをくらった。
うーん。良いタイミングだ。グッジョブ。
「桜は終わっちゃたけど楓の緑がとても綺麗だよ。
今度遊びにおいでよ」
そうね、せっかくだから、またね。日向は電話を切った。
本当に来る気だ。
彼女は私に対して社交辞令は言わない。
それまでに部屋を片付けよう。
と、隅の方に追いやっている引っ越しの荷物の入ったダンボール箱を見た。
でも今日は寝よう。
一週間経ってやっと馴れてきた備え付けのベッドに潜り込んだ。
~つづく~
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