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うたたね♪日記

元・絵本カフェ詩多音オーナーのブログです。 現在は、絵本をつなぐ活動の  心 色~ココカラ~ メンバーとして活躍中!!!

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『MIMI』第40話・雲野詩子

MIMI   -ミミと美海と滝さんについて-


       第40話



滝氏は出て来ない。

寝ているのだろうか?・・・考えにくい。

とても嫌だが伝言でも受けた方が良いかもしれない。

そう思って彼女に近づいて声をかけてみる事にした。

緊張する。



「あの、滝に何か御用でしょうか?

 呼んで来た方がよろしいでしょうか?

 伝言でよろしければ、私が承りますが。」


後ろから声をかけられて、大変驚いたようすで彼女は振り返った。

一瞬、目が大きく見開かれたが、

すぐに元の顔に戻り、私を上から下まで見定めて、

冷たい声で言った。



「あなた誰?漣太朗のなに?」



冷たい声にびびり、

滝氏を呼び捨てにした事に、戸惑い、萎縮する。



「・・・えっっと、あの、私は・・・」



家政婦の町田ですと、言おうとした時、

書斎の戸が開いた。

滝氏だ。

彼女が素早く向き直す。

あ、出て来た。じゃ、もういいや、私は逃げよう。

と横を向くと、驚くべき事を言う滝氏の声が聞こえた。


「その人は僕の妻で美海。久しぶりだね曵汐さん。

 美海、こちら前の職場で一緒だった曵汐さん。

 ごあいさつして?」



「!!!」



驚き過ぎて口が大きく広がって、あごが外れるかと思ったが、

彼女がこちらに振り返ろうとしたので慌てて口を閉じた。

むぅ・・・仕方ない。話しを合わせるか。



「あー、えと、こんにちわ曵汐さん。

 滝、美海と申します」


「奥さん。そう、あなたが、今、の漣太朗の妻なのね」



彼女は「今」を強調した。

何だろう?何も失礼な事は言われてないはずなのに、

とっても嫌な気持ちになった。



「私は、曵汐里華子。彼の最初の妻よ」



「!!!」


おおおおお!そう来たか!

それは想定外だった。

それで滝氏は・・・色々複雑な想いが廻ったのだろう。

だからって、巻き込まないで下さい(泣)



しかし元妻曳汐さんは何をしにやって来たのだろうか?

明らかに滝氏に嫌がられている(滝氏にしては珍しく)


「・・・・そうですか?」


なぜか疑問詞で答えてしまった。


「ええ、そうよ」


そう言った、目が、目がコワイ。

これは修羅場ってヤツか?

そうだ、きっと私は今、修羅場にいる!

逃げたい。


「はぁ、ではあの、お茶でも淹れましょうか?

 ね、寒いのでお話でしたら中で・・・」


滝氏の目がとても静かに「NO」と言っている。


「ありがとう美海、でもその必要は無いよ。

 長居するほどの用では無いはずだから」


いつもより少し低く聞こえる滝氏の声。

こちらを向いたままの曳汐さんがすごい目で睨んでる。

目線が痛い。

滝さんお願いだから彼女を中に入れて、私を解放して下さい。

と目で訴えてみたが、無理そうだ。

多分一番困っているのは滝氏本人なのだ。

今私が居なくなったら本当に困る。

と思っているのが全身から伝わって来る。


「ええ、お茶は結構よ。ありがとう美海さん」


彼女は何も失礼な事は言っていないのだが、

とても軽蔑された気分だ。

毒の塗られた針を刺されたような、

小さな痛みと共に鈍い嫌悪感が広がる。


「・・・・・・・」


あなたに名前を呼ばれたくありません。

口から出そうになったのをぐっと堪えて、

下を向いた。

一歩、曳汐さんは滝氏の方へ歩み寄る。


「突然、押し掛けてごめんなさい。

 電話には出てくれないと思って。

 それに会って話したくて・・・」


ん?なんだなんだ?

要はよりを戻したいという話しをしにきたのか?

で、新しい妻(私)が居たからその妻に敵意を露にし、

どこをどう見ても、自分が勝てると算段して、

話しを持ちかけている・・・?

まぁ、ボロボロのPコートに軍手に長靴で、

見るからに埃っぽくて汚い私に負けたと思う人はまず居ないか。



それはそうとして、滝氏が薄着なのが気になる。

どうして、上着を着て出て来なかったのか。

また風邪でもひかれたら私が困る。

私には関係の無い話しになりそうなので、

上着を取りに母屋に戻ろうか?

でもさっきから滝氏が、私を見張っている。

彼女が話しているんだからそっちを向いとけば良いのに。

目を離したら逃げると思ってか(もちろん逃げますが)

じっとこっちを見ている。・・・困った。


「悪かったと思ってるの、漣太朗を支えられなかったこと。

 逃げるように出て行ってしまった事。

 あなたに、謝りたくて。

 あの頃、仕事も大変で自分の事で精一杯になっていて」


だんだん弱々しい声になってきた。


「漣太朗はいつも仕事ばかりで、

 何も、話してくれなくて・・・

 私、寂しかったの。

 漣太朗には私なんて必要無いんじゃないかと思って」



・・・で?だから何なんですか?

と、私としては言いたい。

何を言ったって彼を置いて行った事に変わりは無い。

滝氏は黙っている。どうして何も言わないんだろう?

もしかしてこのお嬢様の言う事に耳をかしているのだろうか。

一度は愛して、結婚までした相手なのだ、

やはり戻って来てくれた事が嫌では無いのかもしれない。

その上、本当はあなたが一番みたいな事を言い出したら・・・

出て行くのは、私か。

急に、胸がザワザワと騒ぎ出す。



私は、この人が嫌い。


どうせ、出て行くなら私が我慢する必要は無い。


「ずっと気に病んでた。

 あのとき本当は追いかけて来て欲しかったの、

 必要として欲しかった・・・

 だけど、それは私の我が儘だった。

 後になって気付いたの。

 本当にごめんなさい。

 ずっと謝りたくて、ちゃんと会って謝りたくて」


ーあぁ、イライラする。





~つづく~

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