MIMI -ミミと美海と滝さんについて-
第30話
いつもよりずっと早くに帰って来てくれた滝氏は、
お姉様の咲枝さんと一緒だった。
駅で一緒になったそうだ。
咲枝さんは、なかなか迫力のある美人で、
スタイルに自信がないと着こなせないファッションだった。
派手な訳では無い。
シックなのにエッジが効いてるというのか・・・
これが噂のパリジェンヌか。
私?センス良くて当たり前だけど。それが、何?
と彼女の纏う空気が言っている。
「あなたが美海?私が漣太朗の姉の咲枝よ。
いつも漣のお世話をありがとう。
私たち、一週間ほどいるからよろしくね」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
初対面。いきなり呼び捨て。これはパリ流なのか?
咲枝さんだからか・・・?
しかし、なぜか嬉しい。
「美海、携帯出して。私のナンバー入れとくから」
「は、はい」
「まぁ、美海まだガラケーなの?」
「あ、特に不自由していないので」
「そうね、良い選択だわ。
でもフランスとこことで連絡を取り合うには少し不便ね。
漣のPCでスカイプで話せるようにしておいてね。
漣、ちゃんと教えとくのよ」
「うん、そうだね」
「はい、登録しといたから用がある時は電話して。
メールでも良いわ」
そういいながら私に携帯を返してくれた。
アドレス帳を確認してみた。
「咲枝お姉様」で、入力されていた。
ぶっっはぁ!と吹き出しそうになるのを必死で耐えた。
本気なのか、ウケ狙いなのか・・・
滝氏がそれを覗き込んで、笑った。
「くはっ、咲、相変わらずだね。あははは僕のと一緒だ」
「何?間違ってないわ。それに分かりやすいでしょう」
「うん、うん、そうだね」
そんなやり取りをしながら二人はリビングに入って行った。
咲枝さんは旦那様とお子さんを認めると抱き合って、
両の頬にキスを交わした。
同じように滝氏も彼らとあいさつをかわす。
会話は全てフランス語。
滝さん、フランス語も話せるのか・・・料理はできないのに・・・
見慣れたリビングが、突然外国になってしまった。
見慣れた滝氏も少し遠い存在に思えた。
いやいや、私は家政婦なんだから。
仕事仕事。
そう自分に言い聞かせて、強い疎外感を心の奥の方に追いやる。
気を取り直して準備を続ける。
もう、後少し。
ボゥルに入れて冷やして置いたサラダを、
冷蔵庫から出してお皿に盛りつける。
焼き上がったホワイトソースの間にカレーを挟んだグラタンを、
オーブンから取り出し、木製の鍋敷きの上に置いた。
後は・・・と考えながらボゥルを洗っていると、
「何か手伝おうか?」
と部屋着に着替えた滝氏が寄って来た。
ホッと胸の緊張が抜けて行く。
いつもなら、なんとも思わずすぐに
「大丈夫です。座っていて下さい」と返事をするのだけど、
その日は彼が寄って来てくれた事に安心し、
どうしてか嬉しくて、その気持ちが素直に出た。
「ありがとうございます。
じゃぁ、盛りつけ終わった物を運んでくれますか?」
「うん」
快く返事をして、よく手伝ってくれた。
最後のお皿を滝氏に渡した所で、
私は割烹着を脱ぎサンドイッチを持って、
自室に戻ろうと思っていたのだが
「美海さんも一緒に食べよう」
と滝氏に言われ、一瞬停止。
「いや・・・」それはどうでしょう・・・と、
返事を返す前に
「美海、ここにおいで」
咲枝さんからお呼びが掛かった。
「ね?」
と滝氏が笑う。
つづく。。。
http://
[0回]
PR