MIMI -ミミと美海と滝さんについて-
第29話
それにしても、愛実と香穂さんは人見知り同士で大丈夫かな?
などと心配しつつ、きっと翔君がなんとかしてくれる。
と期待して、当初の予定よりも倍の量の食事の用意をした。
少し前にも似たような事があった。
滝氏のお姉様、咲枝(さきえ)さんが来た時だ。
あの日、何の前触れも無く、咲枝さん一家はやって来た。
近くに住んでいるのであれば、そうそう驚きはしないのだが、
咲枝さんは、フランス在住である。
旦那様は、フランス人で、お子様が一人。
その事もその時初めて知った。
二人は咲枝さんが留学中に生徒と先生として出会い、
その後、数年経って、
咲枝さんが就職し、仕事でフランスに渡った時に、
偶然再会し・・・そういうことになったそうだ。
うーむ。なんてドラマチック。
さすがと言うか、現実はなんとかよりも・・・
さておき、咲枝さんは、年に一度帰って来たり来なかったり。
一人だったり、家族とだったり。
咲枝さん次第で決まるんだとか。
その際、事前に連絡をくれた事は一度も無い。
と、滝氏が言っていた。
そして、そのある日。
私が買い物から帰って来ると、
家の前を外国人の親子二人がウロウロしていて大変驚いた。
父親らしい大人の方の外国人が、
フランス語と英語で話しかけて来たがまったく分からず。
女の子らしいかわいいお子様は彼の後ろに隠れてしまい、
まるで私の方が不審者の様だ。
困った困った滝さん助けてー!
と心の中で叫んだ後、はっ、そうだ滝さんだ!
滝さんに電話しよう!
右手に携帯を持ち、左手の指をそろえて、
手のひらを彼の顔の前に突き出し、待った!のポーズで言った。
「滝さんに電話します。お待ち下さい」
もちろん日本語である。
ジェスチャーで分かってくれた様で、
滝氏に繋がるまでおとなしく待っていてくれた。
この時ほど、お願い!はやくでて!と滝氏に願った事は無かった。
ありがたい事に休み時間なのか、彼はすぐに出てくれた。
電話越しでの滝氏の通訳により、
彼らが滝氏のお姉様の旦那様とお子様である事が判明。
お姉様の咲枝さんは友人の所に出かけ、
二人が先に滝邸に到着したとの事だった。
せめて、前日・・・いや、買い物に行く前に連絡をください。
と言いたかったが日本語が通じない。
私は日本語しかしゃべれない。
「ごめんね。いつも本当に突然帰ってくるんだよ。
実家なんだから当たり前って思ってるんだ。
特にもてなしたりしなくていいからね」
と言われたが、そんな訳にもいかない。
特別な事はできなくても、食事やデザートくらいは用意したい。
ということで、二人分しか用意してなかった夕食の材料を、
慌てて買い足しに行った。
フランス人の親子の口に私の料理が会うかは分からないが。
何も無いよりは何かあったら良いだろうと、
せっせっと作ったのだ。
咲枝さんが帰って来るまでフランス人の親子は、
リビングですっかり寛いでいた。
まるで自分の家のように。まあ当然と言えば当然。
不思議な感じだが、滝氏のお義兄様なのだから。
窓際に置いた肘掛け椅子にミミが丸まって二人の様子を伺う。
全く動かないから、まるで目のついたクッションみたいだ。
自分からは近づこうとしない。
親子は良く似ていた。
肌も白いがなかなかに髪も白い。
目の色だけ違う。父親は青、子どもは茶色だった。
顔立ちはもちろん、日本人の子どもの、
おてもやんなかんじでは無く、
将来しっかり凹凸のできそうな外国人顔である。
五歳くらいでとてもかわいい。
シャイなのか父親にべったりくっいて離れ無い。
たまにこっそりと探るようにこっちを見る。女の子だと思う。
白に近いストレートの金髪のボブ。
白地に赤のハート柄のブラウスにヒッコリーのオーバーオール。
スゥェードのキャメルのショートブーツ。
アンクルのあたりに同じ素材のフリンジがついていて、
とても可愛いブーツ。とっても似合っている。
もちろん、玄関で脱いでもらった。
あぁ!なんってかわいいんだ・・・!抱きしめたい。
が、今はそれどころじゃない。
咲枝さん一家三人と滝氏と私。・・・
私は簡単なサンドイッチでいいか。
残り物でできるし。咲枝さんは、外で食べて来るかもしれないが、
分からない。聞きたいが・・・言葉が・・・
人数分作る方が早い。
滝氏も早めに仕事を切り上げて帰って来てくれると言っていたし。
それまでに人数分・・・
必死だった。
今思い出しても、よくがんばったと思う。
それ以来買い物の時は少し多めに買うように心がけている。
準備中、親子でキッチンに寄って来て、何か言うので、
出しておいたお茶かお菓子が足りないのかと思い、
滝氏用に作っておいたプリンを出すと、「NO、NO」
と手と首を横に振った。
違ったらしい。
その場で固まってしまった私に、
とてもゆっくりと「メィアイヘルプユー?」
とフランス人の父親(いや、滝氏のお義兄さんというべきか?)
が言った。
3秒くらい彼とにらめっこして、やっと意味が分かった。
良い人だ。
と思ったが私は英語も話せないので、何も頼めない。
元々、人に頼み事をするのも苦手だし。
そして、お断りの言葉も思いつかない。
その時は残念ながら、「NO」の一言すら浮かばなかった。
とりあえずジェスチャーで分かってもらえるはずだと、
頭を大きく横に振りながら
「いえっ!大丈夫です」と日本語で返した。
すると、ダイジヨウブ?と彼はカタコトで返事をくれた。
おぉ!ダイジョウブが分かるらしい!
「だいじようぶ!だいじょうぶ!」
と私が繰り返すと、ニコッと笑って、「Okey」
なんちょらかんちゃら~
(何か言っていたがオーケーしかわからなかった)
と言ってリビングに戻って行った。
つづく。。。
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