MIMI -ミミと美海と滝さんについて-
第24話
出発の日。
朝からバタバタと掃除をし料理をして、
ミミの餌の用意をし終える頃に時枝夫妻が滝邸に到着。
翔君の方は滝邸に泊まるのは馴れているので、
ご飯とミミのえさの説明だけ簡単にした。
「とうとうお姉ちゃんが・・・」
「とうとう美海ちゃんが、滝、美海に・・・くっ(泣きまね)」
「・・・」
なんていう二人のつまらない小芝居でからかわれながら、
愛車のプーさんに乗り込む。
土曜日なので滝氏は大学の方にいる。
午後1時に構内のイングリッシュガーデンで待ち合わせ。
私と滝氏の荷物は前日にプーさんに積んでおいたので、
滞り無く出発できた。
ミミがプーさんに乗って来るかと思っていたのだが、
やはり滝氏の所に行くからか、玄関でおとなしく見送ってくれた。
「遅くなってごめんね」
といって30分遅刻してイングリッシュガーデンに彼はやってきた
。
学生に捕まっていたそうだ。
「いえ、おかげでじっくりバラの花が観賞できました」
赤、白、ピンク、オレンジ。
紫とピンク、赤と黄、白とピンク。
単色のものから、色の混ざり合ったものなど、
たくさんのバラがガーデンいっぱいに咲き誇っている。
「今とっても良い時期だよね」
初夏の清々しい陽光と、潔い青空。
若い緑と満開のバラ。
甘い香りがゆれる。
仕事が終わったら直接プーさんに来てくれたら良いのに。
どうしてわざわざ待ち合わせるのだろうかと思っていたのだが、
こういう事か、と感心した。
「丁寧に育てられていて美しいですね」
香りたつバラの園の中に二人きり。
気持ちが日常から切り離されて、
ふんわりとした幸福感に包まれる。
昨日からのバタバタも、これからの長距離ドライブも、
それに伴う緊張も。
ひととき、この庭の外に忘れ置いて。
花から目を上げて滝氏を見ると、彼と目が合った。
いや、彼の瞳に捕まった、と言う方が正しいかもしれない。
捕まってしまったから、簡単には、外せない。
今、正に
「彼と見つめ合っている」という図が完成した。
「・・・」
男心を学んだ事の無い私には、
さっぱり何を考えているのか分からない彼の瞳が、
捕まえたものを離そうとしない。
・・・マズい。なにとなくマズい気がする。
これは、持って行かれてしまう。
心臓が早鐘を打つ。
うーん。マズい。私にこの空気は耐えられない。
目を合わせたまま大きく息を吸う。
吐き出す勢いに任せて
「さあ、行きましょう。滝さん!」
「そうだね」
と彼は笑った。
つづく。。。
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