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うたたね♪日記

元・絵本カフェ詩多音オーナーのブログです。 現在は、絵本をつなぐ活動の  心 色~ココカラ~ メンバーとして活躍中!!!

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『MIMI』第21話・雲野詩子

MIMI  -ミミと美海と滝さんについて-


     第21話


「それで、父に話してなくて、もう二年近く父に会っていないんです。

 実家にも随分帰ってなくて・・・」


「ごめんね、気が利かなくて僕が休みを・・・」


「いや、違うんです。帰りたく無くて、帰らなかったんです。

 滝さんが、悪いんじゃなくて」


しまった。仕事の事を話すと直接滝氏の話にもなってしまう。

彼に誤解の無いように話さなくては。


「父は、話せば分かってくれる人です。

 でもわかってくれるからこそ、傷つけてしまうのが分かるから。

 何て言っていいか・・・

 一年前ここに来てすぐの頃、日向や翔君はすごく反対したんです」


「そうだよね、ごめんね」


滝氏が困っている。だーからちがうのに。困った。


「いやっでも、二人とも滝さんに会った後は打って変わって大賛成で。

 謝らないで下さい。私の事で、滝さんは何も悪く無い。

 父に話しにくい一番の理由はそこではなくて、

 反対するだろうからとかでは無くて。

 まず、前の仕事をやめた理由が言い辛くて。

 適当な事を言ってごまかしたりできないし、

 そうしてみてもきっと父は見抜いてしまう。

 前の仕事は、簡単に言うと人間関係でつまずいて、

 めんどくさくなって辞めました。

 あーなんか、苛めっ・・・ていうより、罠にはまったかんじで。

 店長が商品管理の女の子と不倫していて」


「?・・・うん」


「で、その女の子がなぜか、私と店長が不倫しているって噂を流して」


「あぁ。(納得)」


「周りが、ざわざわしてきて。そんな時に良い仕事任されたり評価されると

 余計に波風が立ちまして。面倒になりました。

 次の仕事も決まって無くて、貯蓄もそんなにある訳じゃなくて。

 仕事は気に入ってたんですが、すごく疲れてしまって。

 いろんな事が面倒になって。

 でも一人暮らしを続けるためには次の仕事をなんとかしなくちゃいけなくて、

 だけど仕事探さないととか考えるのも面倒で。

 でもどうしても家には帰りたく無かった」


ちょっと待って、一回落ち着こうワタシ。

だんだん卑屈になって来た。

また、一口グラスに口をつける。

滝氏は黙ってそれを見つめた。


「愛実と私、似てないって良く言われます」


「・・・そうだね」


「私、母にそっくりなんです。じゃぁ、愛実は父に似ているのかと言うと、

 そうでも無くて。まぁ性格も全然違うし。

 何ていうか、愛実も母に似ていて・・・母方の祖母にも良く似ています。」


随分遠回しに説明をしている。

今まで誰にも口に出して言わなかった事を話すのは厄介で、

とても大きな勇気が必要になる。


「私たちそれぞれ、自分の母に似たみたいで・・・」


次に何て言えば良いのか困っていると、滝氏は助け舟を出してくれた。


「愛実さんと美海さんは、お母さんが違うんだね」


秘密が、秘密ではなくなった時、もっと複雑な感情が起こると思って不安だった。

けど今私は、なんだかほっとした。

それは、滝氏がしっかりとそして前から知っていたかのように受け止めてくれたからだ。

言葉が、自然と出て来た。


「はい。私の母は私が一歳の時に亡くなって、

 その次の年に愛実の・・・今の母、好実さんと再婚して、その翌年愛実が産まれました。

 私の母は、洋海と言います。

 その事を知ったのは六歳の頃です。

 ある日父がお墓に連れて行ってくれて、お墓の前で話してくれました。

 私の実母は亡くなっていて、好実さんと血が繋がっていない事を。

 父が再婚してから、私は好実さんに育ててもらいました。

 愛実が産まれてからは愛実と一緒に。

 好実さんはとても良い人で、私たちを平等に扱ってくれました。

 ただ、まぁ、当然ですが、愛情には差がありました。

 本人は気付いていないと思いますが。

 例えば、私たち二人が同時に転ぶと、真っ先に愛実に手を伸ばします。

 まだ、子どもでしたし、私が姉だからかとも思っていましたが・・

 正月とかに、好実さんの実家にご挨拶に行ったりすると特に、

 好実さんの家族にしてみれば私は他人ですから。

 でも幼い頃は実の母だと思っていたので、そういう事を感じると、

 言いようの無い不安や寂しさがありました。

 大人は表面に出して無いつもりでも伝わって来るものがありました

 でも、好実さんと仲が悪い訳では無いんです。

 どちらかと言えば良好で、仲の良い親子だと思われています。

 愛実と好実さんは良くケンカしてます、お互い譲れない性格ですし。

 二人は良く似てます。

 私と好実さんは、譲り合うしかないいんです。

 私たちが家族であるために。

 多分父は、そんな私の気持ちを察してくれて、

 あの日、お墓の前で・・・

 話を聞いて、納得しました。いろんな事に。

 家事に目覚めたのはその頃からで、好実さんに迷惑をかけたく無かったし、

 それ以上に早く自立したかった。

 とにかく家の中に私の居場所は無いように思えたので。

 父の実家に良く預けられていました。祖父母は良くかわいがってくれました。

 特に祖母は料理や掃除片付け、

 知っておくと生活に困らない事をたくさん教えてくれました。

 祖母は何をするにも何を教えるにも楽しそうにしていたので、

 あの頃は気付かなかったけれど、今思うと、

 私の事を想って、必要な事を教えてくれていたのだと思います」


「美海さんの原点だね」


呟くように滝氏が言った。感心しているようだった。

そうですね。と返事をしながら、

あぁ、そうか。と心の中で新しい発見に納得する。

「原点」そんなことを今まで考えた事も無かった。

彼の言う通り、祖母の教えてくれた事の全てが今の私をつくるための、

まさに、原点だ、と。


「父方の祖父母は、私が大人になってから

 『あんたの事をもっと可愛がってあげたかったけど、

  あんたばかりを可愛がると好実さんに気が引けてね。

  二人とも同じように可愛がってたつもりだけど、

  あんたには愛実より寂しい思いをさせてしまったかもしれないね』

 と言われた事があります。

 私はその言葉をどう受け止めたら良いかわからなくて・・・

 なんだか、私の存在がみんなに窮屈な思いをさせているように感じて、

 おばぁちゃんたちには申し訳ない気持ちが先に立つようになっていたけど、

 そっか、そうじゃなくて・・・」


「うん、ありがとう。だね」


手に持ったグラスの、3分の1のアップルジュースから顔を上げて、

滝氏を見る。本当に不思議な人だ。


「・・・ありがとう。ですよね」


「うん」


本当に、不思議な人だ。



つづく。。。

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