MIMI -ミミと美海と滝さんについて-
第20話
「・・・ちがうんです」
悪いのは私で、謝らなくてはいけないのは父で、
話を聞いて欲しいのは、今目の前にいる人。
思いを出してしまいたい。
だけど・・・
滝氏は下を向いた私の頭を一度やんわりと撫で、
その手で軽く背中を押した。
「美海さん、座ろうか」
そう言って私をソファーに座らせると、その隣に彼も座った。
少しの間をおいてから、滝氏は丁寧に言葉を繋いだ。
「今、大切なのはね。美海さん、あなたが話したいか、
そうでは無いかということ。
内容が話すべき事かどうかの必要性では無く、
あなたが、隣にいる僕に話したいかどうか。じゃないかな?」
その彼らしい言い方が、胸の奥の方に沁みる。
鼻の奥がつんっとして止まりかけていた涙が、またあふれて来た。
先生だからなのか、私よりもずっと大人だからなのか
彼だから、なのか・・・
ただ黙って泣いている私の状態を、
彼なりに受け止めてくれているのだろう。
きっと、私の心の動きを想定し、気持ち考慮して、
彼が今私に対して考えている事を正直に伝えてくれているのだと思
う。
「話したいなら話して」と簡略化することもできたのに、
そうはせずに。
話したい。きっと上手くは話せないけれど
「でも・・・」
彼にとって迷惑では無いだろうか。
そんな事を言うともう既に今迷惑をかけているのだけれど。
「でも、は何か言い分けや、
否定の理由付けをする時に使う言葉だよ。
その中にある、気持ちを押し殺すための納得のいく理由は、
今要らないんじゃないかな。探してしまう気持ちはわかるけどね。
話したいけど、でも。なら、気持ちは明確だよね」
「・・・はい。話したいです。滝さんに」
鼻をすすりながら素直にいった。
「うん」
頷いて彼は、幼い子どもにするように私の頭をよしよしと撫でた。
「ちょっと待ってて」
と言いながら風呂場に行き、タオルを持って来た。
タオルを私に渡した後、食器棚からグラスを二つ取り出して、
冷蔵庫からアップルジュースを出して来て、
またソファーに戻って来た。
「はい。一口でも飲んで」
言われた通りにアップルジュースを一口飲む。
冷たくて、甘くて、優しかった。
「それで、どうしたの?」
タオルで顔を拭きながら滝氏に話し始めた。
「き、今日父から着信があって、私、気付かなくて、
それで、電話待ってるってメールも来て、
でもまだ連絡してなくて・・・
じ、実はまだここで働いている事、話してなくて、
前の仕事を辞めた事も・・・どう話していいかわからなくて」
話し始めたのは良いが、
何をどこまでどう話したら良いのか考えあぐねる。
とにかく、一つだけお願いをしておかなくては。
まぁ滝さんのことだから、心配無いとも思うが・・・
「あの、愛実には、愛実や翔君は知らない事なんです。
だから、あの、知られたく無い事なんです、だから・・・」
「わかった。だれにも話さないよ」
ほっとするはずの、彼の答えに、どくんっと心臓に緊張が走る。
秘密を打ち明ける準備を整えてしまった。
「お、おねがいします」
「うん」
つづく。。。
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