MIMI -ミミと美海と滝さんについて-
第15話
その日、滝氏は珍しく忘れ物をした。
と言うよりも必要無いと思い家に置いて行った所、
急に必要になってしまったようだ。
朝食の片付けが終わってすぐに電話がかかって来た。
「大学の講義が終わってから、
高校の方の会議に行かなくてはいけなくなって。
今日は高校の方に行く予定がなかったものだから・・・
机の右側の棚にあると思うんだけどね」
「青いファイル?
右側の棚に青いファイルは3つくらいありますけど、
どれでしょう?」
「白いUSBメモリーがどこかに入ってるファイルなんだけど」
「え?白のUSB?あ、これかな、8GBのですか?」
「そう、それだと思う。
大学の方に持って来てもらえる?
11時から13時まで空き時間があるからできればその間に。
車で一時間くらいかな?
正面の門、入ってすぐに来客用の駐車場があるから、
着いたら連絡してね」
「はい、他には何かありませんか?」
「それだけで大丈夫。ありがとう。よろしくね」
時計を見ながら洗濯とトイレお風呂掃除をしてから出かければ、
丁度良さそうだと確認して、洗濯機にスイッチを入れた。
滝氏は学校の先生をしている。
私立大学の附属高校で英語の教員だそうだ。
それから週に2回、
水曜と土曜は大学の方でも講師をしているらしい。
なので、大学の日は一日大学にいて、
高校へ立ち寄る事はまず無い。
もちろんその逆、高校にいる日(月、火、木、金)に、
大学に行く事も無いらしい。
滝邸から、最寄りの駅まで徒歩約20分。(
滝氏は毎朝歩いている)
その駅から、大学の最寄りの駅までが電車で20分。
そして駅から大学まで自転車で10分ほどだと言っていた。
大学と高校は隣接して建っているけれど、
どちらも敷地が広いので、
移動手段として自転車があると便利らしい。
「それに学校周辺の道があまり広く無くて。
学生がたくさん歩いたりしてる中、運転するのはこわいし、
大学生はバイクや車で通学してる人もいる。
高校生は保護者の方が車で迎えに来るし。今結構多いよ。
だから道が混んでめんどくさくてね」
というのが、「どうして車で通勤しないんですか」
という私の質問に対する答えだった。
面接の時に、僕はサラリーマンだ。と言った滝氏が、
学校の先生だと知ったのは、住み込み三ヶ月目に
「明日から一ヶ月夏休みだから」
と言われて初めて知った。
「といっても補習とか部活とかで、僕は休みほとんど無いけど。
勤務時間が変則的になるから、よろしくね」
「・・・滝さん、サラリーマンっていませんでしたか?」
と聞くと、
「うん、サラリーマンだよ」と返ってきた。
まぁ・・・そう言われるとそうですね。
と言う話になりますが、・・・が、なんとなく腑に落ちない。
なんとも狐にツママレタ気分だった。
今となっては彼らしい答え方だなと思うけれど、
その時は心の中で「なにそれー!!」とぶーぶー文句を言った。
きっと公立高校の先生だったら「公務員だよ」と言うんだろう。
滝氏に、先生としての誇りは?などと問うてみたなら、
「ホコリは少ない方が良いよね。最近アレルギーの子が多いし」
なんてセリフが返ってくるんじゃないかと私は思う。
真面目に働いてはいそうだが、
熱い指導を、熱のある授業を・・・している滝氏は、
想像できない。
英語は好きでは無いが、一度授業参観してみたい。
11時半頃、予定通りお風呂掃除まで終わらせて、
滝氏の勤める大学の駐車場に到着した。
つづく・・・
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