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うたたね♪日記

元・絵本カフェ詩多音オーナーのブログです。 現在は、絵本をつなぐ活動の  心 色~ココカラ~ メンバーとして活躍中!!!

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『MIMI』第10話・雲野詩子

MIMI  -ミミと美海と滝さんについて-


     第10話

滝氏は四角いコインケースに千円札を三つ折りにして入れるのが癖だ。

と聞くと几帳面な人かとも思われるかもしれないが、そうでもない。

三ツに折られた千円札は端っこはそろってないし、

折り目もフワッとしている。

ただ単に千円札をコインケースに入れたいが為に三ツ折りにしているのだ。

(二千円の時は一枚一枚折ったりなどは決してしない。まとめて折る)

なぜ私がそんな事を知っているかというと、

毎日出勤前の朝食中に折って入れているからである。

困った事に滝氏は長財布を部屋に置いて仕事に行く。

それもベッドの上や机の上に。

コインケースへ入れるための千円を取り出して、

そのまま置いて行くようだ。

中身が入っていない訳では無い。

クレジットカードやら福沢諭吉やら結構しっかりと入っている。

赤の他人である私が室内をウロウロするとわかっていて不用心すぎる。

金庫を用意してその中に入れて行くとか、

せめて引き出しの中に入れて出掛けて欲しいと、

何度か文句を言ったのだが


「昼間は美海さんが居るから大丈夫かなって、思っちゃうんだよね」


との返答。

私の文句は何一つ伝わっていない様子である。

仕方が無いので、滝氏の机の一番上の引き出しに長財布の定位置を作り、

滝氏が出掛ける前に(気が向いたら)彼自身がそこに入れて行く。

もし、彼が忘れて出掛けたら私がそこへ入れる、と言う事に決まった。

仕事へ行く時に必要以上のモノを持って行きたく無いらしく、

お昼と飲み物代だけをコインケースに入れて持って行くようだ。

それ以上に何か必要な時(飲み会や買い物など)のみ長財布を持って出掛ける。

滝氏は基本、出不精なので出掛ける事は、まぁ、ほとんど無いが。

ちなみに、大体月の半分以上は私が長財布を引き出しに片付けているのが、

現状である事はお伝えしておこう。




めずらしく、千円を折らずに長財布を持って出勤したなと思っていたある日。

今日は遅くなると連絡が来るだろうと予想して
(職場か翔君との飲み会だろうと思ったので)

お風呂に入った後、ミミにもシャンプーをして、

滝氏のリビングで寛いでいる時に、彼は帰宅した。

いつもより二時間近く早い!

慌ててソファーから飛び起きたので、

お腹の上に乗っていたミミがコロンと床におっこちた。


「あ、ごめんミミ」


一応謝っておく。

ミミは私を一睨みするとカウチに場所を変えてまた丸まった。


「ミミ今日はここに居るの?めずらしいね」


と言いながら滝氏が入って来た。


「お帰りなさい」


手には中くらいの紙袋を持っている。

また何かもらって来たのかと思い、少しドキッとした。


「今日は早いですね。すぐに夕食の支度しますから」

「美海さん、その前にちょっと良いかな、これ」


手に持っていた紙袋は私に差し出された。


「え・・・」


とりあえず受け取って中身を見てみると、

カモマイルの小さな鉢植えが入っている。

驚いた。

最近ずっと欲しいと思っていたものだ。

ペパーミントとローズマリーを三階の小さなテラスで育てているのだが、

次はカモマイルが欲しいなと思いつつ、

なんとなく花屋に行くのを先延ばしにしていたのだ。
(必要にならないとなかなか動かないタイプである)

しかしなぜ突然私にカモマイルを買って来てくれたのか不思議で戸惑っていると、

彼は言った。


「ガトーショコラのお礼に」


あぁ。とカレンダーを見る。

その日はホワイトデーだった。


「ありがとうございます。ずっと欲しかったんです。カモマイルの鉢植え」


淡々とした言い方だったと思う。

とっても嬉しくて、とっても感謝している気持ちで言ったのだが、

気持ちを声にするのは難しい。


「そう聞いたから」


笑顔で言った。いつもの笑顔だ。

わかっている。情報源は時枝夫妻。間違いない。

欲しい物をプレゼントしてもらったという嬉しさももちろんだが、

それ以上に彼の気持ちが嬉しかった。

わざわざ私の欲しい物をリサーチして、それを買って、

いつもより二時間近く早く帰って来てくれたのだ。

ホワイトデーに。

愛実と翔君に作れと言われて作った、ガトーショコラのお礼だと言って。

男の人からそういう気持ちの伝え方をされたのは、

人生において初めてである。

舞い上がってしまうのも無理は無い。

心も体も嬉しくてフワフワした感覚になる。

何より、他の誰かでは無くて、

彼からの贈り物だからより特別に感じる。



ふと視線を感じて振り向くと、

カウチの上に丸まったままのミミが片目だけ開けてこっちを見ていた。

目が合うと面白く無さそうに、ゆっくりとまばたきをして、

目を逸らして、また閉じた。

おっ、ヤキモチやいてるのかな?

なんて心の中で呟いてみて、ニヤニヤしていると、

そんなミミと私のやり取りを見て滝氏が笑う。


「本当に、ミミは美海さんが好きだね」

「そのようですね」


いつもの無味無臭な彼の笑顔を私は真顔で見上げた。


「お風呂入ってくるね」


そう言っていつもより二時間早いお風呂の準備を始めた。

そう言えば、お帰りなさいのお茶を今日まだ淹れていない。

と言う事に気付いて慌てて用意した。

お風呂の支度をして部屋から出て来た滝氏に


「お茶淹れました」


と声をかける。ありがとう。と彼が一口。

今日のお茶がいつもの緑茶では無く、

お客様用の高級な煎茶だった事に彼は気付いただろうか?




つづく。。。


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