MIMI -ミミと美海と滝さんについて-
第9話
バレンタインの日、
滝氏は大きな紙袋に大量のチョコレートを持って帰って来た。
軽くめまいがする。
一応、私もガトーショコラを作って食後にでも出そうかと思っていたのだが、
自分で処分する事に決めた。
「すごい、ですね」
「ありがたい事なんだろうけど、義理や付き合いみたいなものだからね。
片付ける手間を思うと迷惑に感じてしまうよ、毎年。
一度もお返しした事も無いのにどうして持って来るのか、不思議だよね」
「はぁ・・・」
いや、明らかに本気っぽいものもありますけど。
相手にしてないのか、鈍感なのか。
何にしろ、彼に気持ちが届いてないのは確かなようだ。
「これ、どうしますか?」
どう考えても二人では食べきれない。ミミは食べないし。
このまま置いておけば暖房の効いたこの部屋では溶けてしまう。
外に出しておくと蟻が並びそうだし。
でも冷蔵庫には全部は入らない。
包装を取って中身だけにしてしまえばなんとか入るかもしれないが・・・
「・・・とりあえず置いといて、僕が後でなんとかするから。
先にお風呂に入って来るね」
風呂から上がるとまず、全部を袋から出して床に広げた。
「ごめんね、お腹すいてるんだけど、
先に片付けないと食べたら眠たくなっちゃうし」
そう言いながら三つゴミ袋を用意した。
可燃、古紙、プラ。らしい。
そして一つ一つの包装を剥いで、
リボン>可燃。包装紙>古紙。包装のビニール>プラ。
(プラマークは付いていなくても一緒にするらしい。確認している様子が無い)
といった具合に仕分けを始めた。
チョコはアルミやビニールの個包装の状態のまま、
大きなタッパーに次々と入れて行く。
何に使うかわからなかった戸棚の上の大きなタッパーは、
このためだったのかと納得する。
「手伝います」
そう言って、滝氏の正面に座り込む。
赤、ピンク、オレンジ、水色、茶色、黒、金銀スパンコール、
リボンのレース、ラメ入りの飾り、色とりどりの包装を二人で剥く。
立派な包装の割に中身の小さいものが多い。
(きっとこじんまりしている割に値が張るのだろう)
中にはチョコだけでは無く、ネクタイや靴下といったプレゼントもあった。
それでもチョコだけでも50個近くあった。
(チョコクッキーやケーキ他のお菓子なども含む)
あまり考えた事も無かったが、滝氏の職場や周辺の環境の中に、
どれだけたくさんの女の人が存在しているのかをその時初めて実感した。
「生モノだけ冷蔵庫にね。クッキーは外で大丈夫だよね。
カゴに入れよっか。タッパーが3つか・・・
コレ、全部冷蔵庫に入るかな?」
言いながら滝氏は冷蔵庫を開けた。
「あれ?」
!あぁぁぁ・・・しまった。私の作ったガトーショコラがど真ん中に入っている。
滝氏がこちらを振り返る動きに合わせて、私も首を後ろに回した。
彼がお風呂に入っている間に奥の方にでも隠すべきだった。
「美海さん?コレもしかして僕に作ってくれたの?」
「・・・」
言い訳が思い浮かばない。顔を滝氏の方に戻せない。
「ハァ・・・愛実と翔君が絶対作っとけっていうから・・・」
嘘じゃない。でも真に受けて作った事を今心底後悔している。
だって、喜んでくれたら良いなと思って作ったのも本心だから。
迷惑なほど毎年もらっているなんて知らなかったのだ。
・・・に、しても子供みたいな言い訳をしてしまった事に気付いて、
恥ずかしくなった。
「すみません、ご迷惑だとは知らなくて」
ちゃんと向き直って言った。
滝氏は笑顔だった。つい、ほっとする。
「食後に一緒に食べようね」
「いや、無理に食べていただかなくても・・・」
滝氏の左手が伸びて来て私の頭の上に乗った。髪を優しく撫でる。
「一緒に食べよう、ね」
「・・・はぁ、そうですね」
滝さん、ソレ、反則です。
冬なのに、冷え性なのに、指の先までぽかぽかする。
この人と、これから先もずっと一緒に居たい。
そのためにどうしたらいいのか、私の乏しい想像力では良い案は浮かびそうに無い。
今度、愛実の想像力を分けてもらおう。
きっと喜んで相談に乗ってくれるだろう。
つづく。。。
http://
[0回]
PR