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うたたね♪日記

元・絵本カフェ詩多音オーナーのブログです。 現在は、絵本をつなぐ活動の  心 色~ココカラ~ メンバーとして活躍中!!!

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『MIMI』第7話・雲野詩子

MIMI     - ミミと美海と滝さんについて-


     第7話

「妻って、元だけど。もう何年前になるだろう」


「・・・」


驚いた。心臓がギュッと握り締められたように息が詰まった。


「高校を卒業して大学が家から遠かったから、

 僕は一人暮らしをはじめてね、

 それから両親が亡くなるまで、ここには帰って来なかった。

 三十くらいの時に結婚して、

 今よりもずっと職場に近い所に住んでたんだけど、

 五年前に海外旅行に出たきり。

 両親は帰らぬ人となってしまって」


聞いてはいけない事を聞いてしまった気がして、

いたたまれない気持ちになった。


「それでここの管理や色々と後処理もあって、

 僕は一人でこの家に帰って来た」


「え、奥様は?」


「共働きだったから。

 彼女には家が落ち着くまで無理に来なくて良いと言ったんだよ。

 彼女の職場もここからは遠かったから。

 彼女がこちらに移って来たのは半年くらい経ってからだったと思う」


いろんな女の人がいるんだなぁと改めて思った。

私なら、いや私を含めて私の周囲にいる女の人なら(主に日向と愛実と母だが)

夫である人がそんな大変な時に仕事を優先して一人にさせるなんて、

考えにくかった。

わたしだったら、側にいたなら何か出来る事があるのでは無いだろうか、

と考えるだろうと思うからだ。

私が夫婦と言うものに理想を抱き過ぎてるにすぎないのか・・・


「彼女はここに来て、まず家具を全部換えたいと言って換えた。

 両親の使っていた家具は、ソファーや肘掛け椅子は三階の客室に今でも使っていて、

 後はもう残っていない。

 知り合いにあげたり、家政婦さんに手伝ってもらってリサイクルに出したり」


「それで、よかったんですか?」


間違った質問だったかもしれないが、

何となく私には滝氏の元妻の行動が腹立たしかった。


「当時の家政婦さんにも似たような事を聞かれたよ。

 かおるさんって言ってね、かわいいおばあちゃんで、

 今はお嬢さんの所で孫の面倒を見てる。

 時々手紙をくれるよ」


あぁ!白川かおるさんだ!と知人のように思い出したが、

本人を知ってる訳では無い。

一ヶ月に一通、滝氏に来る手紙。

毎回、和風のかわいい封筒に入っている。その送り主の名前を思い出したのだ。

すっきりとした綺麗な字を書く女性だ。


「かおるさんは良く思わなかったみたいだけど僕は仕方ないと思った。

 その時はその後出て行くなんて思ってなかったからね」


少し寂しそうに語る。


「・・・それで、離婚されたんですか?」


「うん、彼女はここに半年も居なかったよ。

 確か両親の一周忌の前にはもう居なかったね。

 他に良い人がいたんだ。

 僕らには子供もいなかったから迷う事も無かったみたいだね。

 離婚が成立して出て行く時に、

 自分で用意した家具は全部持って行ったよ。

 だから一時この部屋には何も無い時があって、

 ベッドさえ無くて、三階の客室を使ってたなぁ。そういえば」


「ああ・・・それで・・・」


間に合わせで用意された家具が、今のこの部屋なんだと納得した。


「つまんない男なんだろうな、僕は」


本当につまらなそうに言うものだから、笑いそうになった。


「そうかもしれませんね。だけど、

 どういう経緯でも、今の滝さんをつくるための出来事で、

 それによって今私がここに居て良いのなら、

 私はその全てに感謝します」


失礼かもしれないとは思った。

一見、他人の不幸を喜んでいるようにも聞こえる。

でも今家政婦として、滝氏と彼の住むこの家は私にとって、

やさしくて幸せな場所で、だから正直な気持ちを言った。

掃除をする時、食事をする時、ネコのミミと遊ぶ時、

彼の帰りを待つ時に退屈だとつぶやく時も幸せだと思っている。

実際、それが仕事だと判っていても、

高い給料を受け取るのが申し訳なく思い、減給を申し出た事がある。

半分にしていただいてかまいません、と。

(半分になっても前より貯金が出来る)

しかし滝氏は、いやいつも良くしてくれてるから、と私の申し出を断った。

その気持ちがなんとも嬉しかった。

もちろんいつまでもここに居られるとは思ってない。

その出て行かなくてはいけないいつか、のために貯金をしているし、

荷物も必要以上に増やさないようにしている。

滝氏は37歳でまだ男性としては若く、いつ彼女が出来て結婚するともわからない。

彼ならきっと家政婦を続けてくれて構わないと言うだろうが、

相手にとって家の中を他の女がうろちょろするのは気に障るだろうし、

私だって嫌だ。

地味に失恋したような気分になるに違いない。


「・・・」


じっ、と。私と目を合わせたまま滝氏は黙ってしまった。

読めない表情をしている。

やはり失礼だったかと思い謝った。


「すみません失礼な事を言いました・・・」


彼は笑った。とても、幸せそうに。

自分の心が、彼に落ちて行くのがわかった。


「ちがうよ美海さん、謝らないで。

 美海さんには勝てないなって、思ったんだ。

 いつも本当に僕に必要なものを与えてくれるよね」


心臓が、暴走している。止まれと言っても止まりそうに無い。

彼が笑顔で追い打ちを駈ける。


「ありがとう美海さん」


限界だ。

彼を抱きしめたくなる想いをぎゅっと押し殺して、慌てて立ち上がった。


「滝さん日付が変わっていますもう寝ないとおやすみなさい」


バタバタとあちこち電気を消して、滝氏をソファーに残したまま、

自分の部屋に逃げ帰った。

部屋に戻るとミミがいつも通り肘掛け椅子に丸まっている。

片目だけ開けてチラッとこっちを見た。

ミミの背中をひと撫でしてベッドに倒れ込む。

窓の外では紅葉した桜の木の葉が月の光に影をゆらす。

家政婦として彼の側に出来る限り居たい。

だから、これ以上彼への気持ちが育たないでいてほしい。なのに・・・


「ミミィー。助けてよ。滝さん反則技多すぎ」


ふわぁっと、ひとつ大きなあくびをして、ミミはそっぽを向いた。

そうか、無視か・・・

いやいや、まったく私は。

ネコに何を期待しているのやら・・・




つづく。。。
 

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