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うたたね♪日記

元・絵本カフェ詩多音オーナーのブログです。 現在は、絵本をつなぐ活動の  心 色~ココカラ~ メンバーとして活躍中!!!

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『MIMI』第6話・雲野詩子

MIMI  -ミミと美海と滝さんについて-


     第六話

滝氏が酔っぱらって帰って来た。めずらしい。

職場の飲み会などで少し飲んで帰って来る事はたまにあるが、

酔っぱらうほど飲む事は今まで一度も無かった。

しかもどうやら飲ませたのは翔君のようだ。

翔君は飲ませるのが上手い。


「ごめんね、こんなに遅くなると思ってなくて、

 寝てて良いって連絡するべきだったね」


・・・言っている事はいつもの滝氏なのだが、

声の響きに色がある、というのか艶があるというのか。

日本酒の香りに混じって、私の肌をなでる。


「呑まされましたね、翔君に」


フラフラしながらソファーに沈み込む彼に氷水を渡す。


「ははっそうだね」


一口飲んでテーブルに置いた。

それから上着を脱ぎかけて途中で寝始めた。

えぇ!そこで寝る!?

脱ぎ終わってからでも良いじゃん!

と心の中で文句を言いながら、

気持ち良さそうに寝入ろうとする滝氏の邪魔をする。


「シワになりますよ」


と言って彼から上着を剥いだ。

出来ればあと十歩。歩いてベッドに行って欲しいがそれは望めそうに無い。

しかし上着をとられて少し目が開いたらしい。


「ははっ悪いね、ありがとう。美海さんお茶を淹れてくれるかな?」



笑顔の彼と目が合う。いつもの無味無臭なそれでは無く、

しっとりと雫を落とす雨の後の新緑のような若く艶やかな色が宿る。

この人は男の人だ。

胸の奥から生温かい感情が流れて来て、彼に触れたくなった。

手を伸ばしかけて理性が働いた。

急いで目を逸らす。


「お茶。はい。お茶ですね」


わざとハキハキと声を出して言った。

逃げるようにクルリと滝氏に背を向けて、

手に持っていた彼の上着をかけに行き、クローゼットの前で深く呼吸をした。

平静を装って、彼にお茶を淹れる。


「どうぞ」


湯呑みを出すと


「美海さんの分は?」


と言う。


「えぇっ」


心の声が出てしまった。


「一緒にお茶飲もうよ」


いいえ、さっと飲んでさっと寝てください!

とは言える訳が無く、


「はぁ・・・」


と返事ともため息とも付かない声を出した。

自分の分のお茶を入れてテーブルを挟んで彼の斜め向かいに座った。

それを確認してから


「いただきます」


と言って滝氏はお茶を一口飲む。合わせて私も一口飲む。


「うん、おいしい。美海さんの淹れるお茶は本当においしいよね」


ブッ、と吹き出しそうになって、グッと堪えた。

この酔っぱらいはまた何を言い出したのかと思って滝氏を二度見した。

普段の彼からは聞く事の無い発言。


「はぁ・・・ありがとうございます」


気の無い礼を言う。


「本当に、もう僕は美海さんがいなくては生活が成り立たないよ。

 いつもありがとう」


口説き文句のように甘い声で言う。

必死で心の動揺を隠している私にさらに続ける。


「美海さんは若いのに落ち着いていて、家事も出来て料理もおいしくて、

 無愛想だけどやさしいよね」


コラッ!無愛想は余計だ。でもおかげで動揺は少しおさまった。


「・・・家政婦冥利に尽きます」


「ははっ美海さん本当に26歳?冥利に尽きるって・・・久々に聞いたよ」


私だって自分で言って久々に聞いた。

でも間違っては無いと思う。笑う所じゃないじゃないか。

少しムッとして湯呑みの中身を飲み干す。


「でも美海さんらしいね。そういう所もいいな、と思うよ」


えぇ!!

びっくりしてお茶が入る所を間違える。

気管に入ってむせてしまった。


「大丈夫?気管に入った?」


滝氏が身を起こしてこちらを気遣う。

それを片手で制して


「あ、ゴフッ、はい大丈夫です」


この人は酔うと口説く人なのか?

心臓に悪い。


「美海さんはお姉さんなんだね。翔太君から聞いたよ。

 愛実さんと二人姉妹で、以前会った日向さんとは三姉妹みたいなんだって」



「まぁでも日向が一番上のお姉ちゃんみたいなかんじですけど・・・」



「日向さんしっかりしてそうだからね。

 けど美海さんの方が落ち着いてるよね。

 フワッとしてそうで意外と冷静に物事を見てる」


手に湯呑みを持ったまま、どこか遠くを見つめるような、

半分夢の中のような視線でつぶやく。

フワッとってなんだ!フワッとって!

だけど、よく私の事を見てるんだなと初めてわかった。

生活上必要な事か、または当たり障りの無い事しか話す事は無いし、

あまり(お互い)感情を表に出す方では無いので、

私に対して彼は不満もそれほど無いが興味も特にないだろう、

と思っていたのだが、しかしそれなりに興味を持って見てくれてたんだなと


「・・・そうですね」


ソファーにべったりと張り付いている様子を見ると、

体力的にはもう眠りたいと思われるが、話したいのかまだ寝そうに無い。

せっかくなのでずっと気になっていた事を聞いてみた。


「滝さんはご家族は?」


「・・・僕はね、上に姉が一人と下に妹が一人。

 二人とも結婚して離れた所に住んでるよ。

 両親は五年前に他界してね」


「・・・」


「ここは僕の実家なんだよ。

 僕が育った頃と建物は全く違うけど、

 庭の木々と父の書斎は変わらないままなんだよ。

 ここはね、僕が大学生くらいの時に母が、

 留学生を受け入れる下宿を始めて、

 その時に建替えたんだよ。

 その当時姉が車に乗り始めたばかりで、

 父、母、姉と三台家に車があって、

 それで駐車場を一階に広く造って、

 だから最初は来客用は一台分だったんだよ。」


なるほど。


「それで三階の部屋にはそれぞれユニットバスまで付いてるんですね」


「うん」


何がそんなに楽しいのかわからないが滝氏は嬉しそうに笑う。


「ではご両親を亡くされてからずっとここにお一人で?」


酔っぱらいなのを良い事に少々聞き辛い事も聞いてみた。


「いや、妻と、両親が生きてた頃からの家政婦さんと三人だった」


「!!」



つづく。。。

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