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うたたね♪日記

元・絵本カフェ詩多音オーナーのブログです。 現在は、絵本をつなぐ活動の  心 色~ココカラ~ メンバーとして活躍中!!!

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『MIMI』第二話・雲野詩子

MIMI      -ミミと美海と滝さんについて-


   第二話




若く見えるが話し方がずいぶん落ち着いている。

やはり二十代ではない。

耳障りの良い声でさらりと話す。

大きな声ではないのにしっかり耳に入ってくる。

明らかに、寝起きです。

と主張する髪型はとりあえず置いといて、

雰囲気や見た目からして全くモテないわけではなさそうだ。

37歳まで独身でいるなんて不思議だな、なんて余計なお世話な事を考えた。

家政婦を雇うより奥さんが一人いた方がいいように思うが、人それぞれか。



「少し仕事の説明をするね。

 内容は家事全般。掃除洗濯それから食事の用意。

 くらいかな、

 休憩は好きな時に好きなだけとってくれてかまわないよ。

 でも仕事はしてね。

 休みは僕の休みと一緒の日曜、祝日にしてもらっていいかな? ありがとう。

 他にも必要な時は相談してくれたらいい。

 僕はいつも7時くらいに家を出て、夜は10時くらいに帰ってくる。

 日によって違うけど、大抵そのくらい。

 朝はお味噌汁だけ用意しておいてくれたらいい、

 お昼はいらない、夜は何でもいいよ。

 出掛けたりしていらない時は連絡するから。

 あとは・・・僕、サラリーマンだから、

 毎日Yシャツにアイロンをかけておいて欲しい。できる?」


「まぁ、一応出来ます」


彼は少し笑って、うん、とうなずいた。

じゃぁ敷地を案内するね。そう言って家の外に出た。

あれ? 庭の案内をしてくれるのかな? と思いながら後に続いた。

 表札に「滝」と書かれた120センチくらいの背の低い門を入ってすぐの所、

木造平屋2LDK(風呂トイレ別付)の、古民家というより

古いモデルハウスのような小さいけれど立派な家があり、

面接のために通されたのはその家のリビングだった。

家の周囲にはぐるっと楓の木が植わっていて、奥に行くと桜の木もあるようだ。

敷地の割に小さな家だなとは思っていたのだが、滝氏の次の言葉には少し驚いた。


「ここは僕の書斎、奥に自宅がある。少し歩くよ。」


そう言う事か。

それは奥さんがいたとしても家政婦が必要だ。


「書斎は一週間に一度ほど掃除してくれたら十分。

 風呂はまず使わないし、トイレとキッチンを主にお願いしたい。

 料理はしないけどここで食べたり飲んだりはするからね。

 北側にある本棚の部屋は何もしなくていいよ」


二分ほど歩くと桜の木の向こうに

洒落たコンクリート打ちっぱなしの三階建てのビルが建っていた。

 三階建て、とは言っても一階は車の駐車スペースになっていて四台は停められるそうだ。

今はきちんとシャッターが降りている。

きっと高級な外車が四台入っているだろうと思っていたが、

自分の車が一台あるだけで、後は来客用なんだとか。

車には特にキョウミが無いようで、持っている一台の車も、

猫も杓子も持っていると言えるほど道に出れば見ない事が無い、

国内メーカー(しかも色は、白)のハイブリッドカーだった。


「僕の生活スペースは二階だけ。

 三階は三部屋あって、それぞれ客室になってる。

 来客のある時だけ用意と片付けをしてくれたら良いよ」


住み込むのであればその内の一部屋を好きに使って良いという事だった。

驚く事に、三部屋それぞれにユニットバスまで付いていた。

もちろん鍵も。

 滝氏の住居スペースの二階は、南側に広いテラスがあり

こじんまりとした2LDKの造りで二つの部屋の間にウォークインクローゼットがあった。

書斎には、古いけれどもとても良い家具が心地良さそうに置かれていて、

そのイメージから考えると、

自宅のインテリアにはもっとこだわりがありそうだと思っていた。

モダンなコンクリートの外観に合わせて、

スマートで華やかな北欧デザイン・インテリア。のような・・・

 実際は、床に無地の簡単なラグ。

その上にベージュのソファーと木製のテーブル。

白の三段ボックスを横に置いて、その上に40インチほどのテレビ。

リビングにはそれだけ。

 ダイニングキッチンには楕円形の食事用テーブル、チェアーセットが一組。

冷蔵庫を始め調理器具はそれなりにそろっていたが、

最近使われたらしいのはポットと湯呑みくらいのようで、

食器も道具もきちんと仕舞い込まれてまるで眠っているようだ。


「あとここは僕の寝室。

 まぁ週に一回軽く掃除をしてくれたらいいから」


窓側に本棚と机。

机の上にはノートパソコン(最新らしくめっちゃ薄い)とプリンタが置いてあり、

その横には書類らしき紙や本、ファイルが重なっている。

本棚にセミダブルのベッド。シーツ一つをとっても特徴は無い。

その他、彼の私物がそれなりに置いてあったが、

広さの割に物が少なく、散らかっているという印象はない。

シンプル、と言えば聞こえは良いが・・・


「申し訳ないんだけど」


そう言って案内されたのは、トイレとバスルーム。

まぁ正直、キレイとは言えない状態だった。

窓はあるのに久しく開けられていないようで、

換気扇を回すだけではとれない、

ほこりっぽさに湿気の混じった不快な空気が漂っていた。

広い浴槽も長く使われていない様子。

トイレのタンクや洗面台にはホコリが溜まり、

もちろん、洗濯物も溜まっている。


「本当は毎日お湯に浸かりたいんだけど」


「毎日お風呂を沸かすと水道光熱費は結構あがりますけど、

 それでも良ければ毎日沸かしておきます」


明らかにお金持ちな人に向かって言う事じゃ無いな。と言ってから後悔した。


「そうなの?じゃぁ美海さんもここのお風呂を使うと良いよね。

 一人で使うならもったいないけど、二人で使うなら悪く無いよね」


「・・・?」 ・・・え?


自分一人が使うのに水道光熱費が上がるのはもったいないが、

他にも誰か使う人がいれば、まぁいいか。と思える、と?

えぇぇぇ、ナニその旅は道連れ的な発想は。

と思ったが、もちろん言わず、


「それは住み込みの場合は、ということですか?」


という質問をした。


「え?住まないの?」


滝氏は驚いた。

えぇ、いやいやその反応に私が驚きますよ。と思いつつ



「いや、住む場合の条件とかも聞いてからでないと決められません」


「条件?」


「家賃や光熱費について・・・とか」


「あぁ・・・」


住み込む場合のそういった事についてはよく考えていなかったようだ。


「あと何かルールのような事があれば」


「ルール・・・ね、それはこれから一緒に考えよう。

 水道光熱費込みで三万でどうだろう。あ、食費も入れて、三万五千。

 車も自由に使って?もちろん燃料費は僕が、いつでも言って?

 どう?良いと思うよ。」


「私の食費を滝さんが半分出してくれるという事ですか?

 アイスとかケーキとかも?」それとも・・・


「アイスやケーキを買う時は僕の分も一緒に買って来てくれる?」


「あぁ、はい。え、いやそれは例えの話です。じゃなくて・・・」


「わかってるよ。食べる物は一緒でいいんじゃないかなっていう提案だよ」


自分の分を別で作るのは大変だと思うしね。

滝氏はそう付け足した。

三万五千円でおやつ代まで出してくれるなんて、住まない訳にはいきませんね。

という心の声が聞こえたかのようなタイミングで滝氏は言った。


「決まりかな」


滝氏はわらった。

その笑顔がなんだか勝ち誇っているように見えてなんだか悔しかったが、

おやつ代の誘惑には勝てなかった。


~つづく~

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