MIMI -ミミと美海と滝さんについて-
第一話
「じゃあ、美海さん今日からよろしく」
目の前の男性はそう言った。
間違いなく、そう言った。
「えっ」
と、少し戸惑ったが流れにまかせる事にした。
そういう訳でその日から私は彼の家政婦になったのだ。
家政婦募集の張り紙を発見したのは、その日、を溯ること三日前の事だ。
ちょうど5年ほど勤めたインテリアショップを辞めて
一ヶ月ほどぼんやりと過ごしそろそろ何か次の仕事を探そうか
と思っている時の事だった。
海に行った帰り道、たまたま通った住宅街で見つけた、家政婦募集のはり紙。
家政婦か・・・考えた事も無い職業だなとは思いつつ
昔読んだ家政婦が主人公の小説を思い出した。
悪く無いかも。
根拠は無く、特に深くも考えず、
*家政婦募集*
月収 20~25万円
休み 週1日(他、応相談)
住み込み可
連絡先 滝漣太朗
xxx-xxxx-2789
一見、良すぎる月収に、十分怪しさは滲み出ていた(今思うと)のだが、
家政婦ってそういうものなんだろうと安易に思ってしまったのだ。
知らない。とは怖い事である。
ちゃんとした家政婦派遣会社などの求人であったなら
会社名が明記してあっただろうし、
きっと時給や日給で表記され、
研修有りだとか必要な資格だとか書いてあるはずだ。
きちんとしたお屋敷の家政婦であればはり紙で募集はしないだろう。
だいたい、住み込み可、って何だ。
個室寮有り、なら旅館などの募集でよく見かけるが。
気楽にも、あ、住めるんだラッキー。
今のとこより家賃安かったら移ろうかな。なんてその時は思った。
あともう一つだけ文句を言わせて欲しい。
連絡先の名前。
(漣が読めなくて滝ナニ太朗だろう?と思っていた)
この名前を見て私はすっかり勝手におじいちゃんだと思ってしまったのだ。
なので迷わず電話をして、面接に至ったと。
(あぁ、電話の声で気付くべきだった。)
そして面接当日、出て来たのはまだ若い(一見)男の人だった。
「名前は滝漣太朗(タキレンタロウ)年は37歳、この家の住人は僕一人。
ネコ好き? そう、良かった。
野良なんだけど庭に住み着いてて、たまに餌あげてやってね」
まぁ、37といわれれば37。
でも29といわれても29に見えなくも無い。
独身だからか若く見えるな、という第一印象。
どちらにしてもおじいちゃんだとばかり思っていた私としては、
ダマされた!
休み時間にはおじいちゃんと縁側でのんびりお茶をするはずだったのに。
と勝手におじいちゃんだと思い込んでいたくせに心の中でブーブー文句を言った。
だいたい、何だそのタキレンタロウって音楽家みたいな名前は。
笑ってやりたかったが心の中でやめておいた。
「町田・・・みうみさん?」
「あ、いえ、ミミです。町田美海です」
「へぇ、奇遇だね。庭に住み着いてるネコもミミっていうんだ。
人懐っこい方ではないけど、まぁ仲良くしてあげて」
「あ、はいわかりました」
ええー・・・ネコと同じ名前。
この名前だとよくあることだけど、私はネコじゃない。
けどきっと今、彼の中で私とネコのミミは同じ引き出しの中に入った。
~つづく~
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