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うたたね♪日記

元・絵本カフェ詩多音オーナーのブログです。 現在は、絵本をつなぐ活動の  心 色~ココカラ~ メンバーとして活躍中!!!

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<道を歩けば花>

喜びと共に

花を添えるというように
笑顔のすぐそばに

日本では花の季節と共に
新しい生活が始まる
入園 入学 入社・・・新学期 新年度 新生活・・・



歓びの咲く空の下に

ゴッホの名画 ヒマワリ
モネの大作群 睡蓮
マリア様の傍らに純白のカサブランカ
北欧のデザイン 世界中のテキスタイルに
デフォルメされた様々な花
南国の、目の覚めるような
鮮やかな色と色のコントラスト
海の中に
森の中に
高い 高い 山の上の その上に


虹が出た。
雨が止むと、空を占領していた灰色の雲が窓を作る。
そこから太陽の光が射し込み空気中の水分なんかが、プリスムのように光を映す。
  赤
   橙
    黄
     緑
      青
       藍
        紫
虹の七色を肉眼で認識できるほど、私の目は良くない。

四角い部屋の四角いベッドの上に寝っころがって、四角い窓の向こう
逆さまに見る、四分の一の一辺の虹。
窓の方に手を上げて、人差し指をたて、
片目を瞑って、焦点を合わせて、虹を指でなぞってみる。
窓の桟で途切れた。

もっと先が見たいな。見に行こう。

小さな思いつきを実行するためにベッドの上から飛び起きて
いつも持ち歩いているスパンコールの着いたピンクのバッグを手に取って、
大急ぎでスニーカーを履いた。
アパートの四階から一階まで階段を駆け下りて、虹を探した。
路地から見上げる空は建物と建物に挟まれて、小さく遠く見えた。
東の空に虹のかけらを見つけると、早足で歩き出す。
五分ほど歩いたところに公園があった。
紫陽花が満開をむかえていてその美しさに、つい立ち止まった。
雨の雫が葉を滑り、花弁の上へと降りてゆく。
雫は萼を潤し、涙のような水の宝石を象る。
まるで、スウィーツの上にかける甘いつややかなシロップのように、
紫陽花の美しさを艶やかに引き立てる。
「帰るよー」
公園の中で遊んでいる子に母親らしき女性が呼びかける。
その声でふと我に返る。

虹を見に行く途中だった、急がないと消えてしまう。

東の空にまだ虹があることを確認して、また歩き出す。
歩きながら何度も、虹が消えていないかと空を見上げる。
その度に虹のかけらを見つけては

その先が見たいんだよ

心の中でつぶやく。
東へ東へと、虹に向かって歩いた。
20分ほど歩いただろうか、
住宅街の先には背の高いコンクリートの壁が立ちはだっかていた。

この上に立てばきっと虹が見える。

壁に沿って歩くと、突き当たりに上へ行けそうな階段があった。
波の音が聞こえた。
どきどきしながら階段を登る。

虹が消えていませんように。

コンクリートの壁の向こう側は砂浜で、その先に遠浅の海。
ぼんやりと描かれた水平線の上には、
この時を待ちわびていたかの様に、
鮮やかに色を重ねた


海に虹が架かっている

探し求めた光景を目の前にして、心がぎゅっと引き締まる。
瞼が熱くなるのを感じた。

砂浜に降りて少し歩いた。
虹はもうすぐ消えてしまいそうに色が薄くなっている。

虹が消えてしまったら帰ろう

平日の夕方、海岸には犬の散歩の親子や、ジョギングする人、
ただ海を眺めていると思われる人たちがぱらぱらといて、
とても平和な時間が流れていた。
虹が空に溶けて無くなるのを見届けて、ゆっくりと来た道を戻り始めた。
足元にハイビスカスの赤い花を認めて立ち止まった。

こんなところにハイビスカスが咲いてる

なんだか、根付く場所を間違えてしまったかのように、
ぽつりと、一株だけ咲いていた。しかし
揺るぎない深い緑に、燃えるような赤を称えるその姿は、
自信に溢れ、ただ静かに、海のある景色を見つめていた。
「これは、なんていう花?」
男の人が話しかけてきた。

ハイビスカスも知らないのか!

と驚いて彼の顔を見上げた。
「ハイビスカス」
と、彼の目を見て答えた。彼も私に目を合わせたまま、
「南国の花だね。なんだか迷子みたいなのに、
 堂々としていて、とても綺麗な花だ。」
そう言って穏やかに笑った。
同じ花を見て、似た様な事を感じたんだなと思い、私は
彼に対し、素直に共感を示した。
それから、
夕日が沈むまでの間、
さっきの虹はきれいだったとか、この先にキャンプ場があるとか、
この海岸は梅雨が明けると海水浴の人々で賑わうだとか、
ただなんとなく、
そんな、とりとめのない話をした。

***


「本当は知ってたんだよ」
私と手をつないで、隣を歩く彼はぽつりと言った。

彼がプロポーズをしてくれた時に、
私は彼に一つだけお願いをした。
結婚して、子どもができて、母になり、年を取っておばあちゃんになっても、
二人で手を繋いで海岸を散歩してほしい、と。
彼は笑顔で
約束する
と言ってくれた。そして
還暦を過ぎた今でも、守り続けてくれている。
二週間前に梅雨入りして、雨が降り続く中、
この日はめずらしく午後から晴れ間が覗き、もしかしたら
虹が出るかもしれないと、海まで散歩に出たのだ。
海に着いた時まだ虹はでておらず、

残念だったね

と、顔を見合わせて笑った。
諦めて、砂浜を歩いているといつのまにか
大きな虹が海の上に架かっていた。

ああ、あの日の虹みたいだ

そう思って瞼が熱くなった。その時に
彼はつぶやいたのだ。
「本当は知ってたんだよ」
脈絡の無い彼の言葉に私はこう答えるしかなかった。
「何をです?」
目を丸くして私は彼の顔を覗き込んだ。
彼はゆっくりと私に目を合わせて言った。
「ハイビスカス」
一瞬何の事だかわからずに私は黙って考えた。そして

ハイビスカスを知らないのか!

と、とても驚いたことを思い出し、笑った。
「まあ、そんな昔の事を突然、どうしたんですかあなた。
 ふふふ、だけど今ね私もあの虹を見て、
 あの日の事を思い出していたのよ。
 知っていたのにどうして、花の名前をきいたの?」
彼はそっと視線を虹の方へ向け、少し考えた。
「君にかける言葉が他に思い浮かばなかった」
てれたように微笑むとつないだ私の手を持ち上げて、
その上にもう片方の彼の手を重ねた。

そうだったの

私の手を包む彼の手に私のもう片方の手を乗せる。
「どうして声をかけようと思ったの?」
あの、ハイビスカスの美しい赤色を思い出しながら、尋ねる。
「あの日、君を見つけるより先に僕はあのハイビスカスを見つけて、
 こんな所にハイビスカスが咲いていると思った。
 君とも話合ったように、とても綺麗だと思っていた。
 そして目を移すと、虹を探しに来た君がいた。
 虹を見上げて泣いている君を僕は美しいと感じた。
 こんなところにとても綺麗な花が咲いている。
 そう、思ったんだ。」


***おわり***

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