元・絵本カフェ詩多音オーナーのブログです。
現在は、絵本をつなぐ活動の
心 色~ココカラ~ メンバーとして活躍中!!!
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MIMI -ミミと美海と滝さんについて-
第32話
「おねーちゃんはぁーふつーの料理しかしないんだけど、
年季が入ってておいしいんだよね」
ん?ん?それは褒めているのか?貶しているのか?
「なんかわかる、美海にしか出せない味?なかんじよね」
香穂さんが相づちを打つ。
赤ちゃんが寝入ってくれたのを良い事に愛実がテーブルにつく。
入れ替わりに、食べ終わった滝氏が寝ている赤ちゃんを見に行く。
意外にも子ども好きのようだ。
そういえばレイくんともよく遊んでいた。
・・・いや、意外でもないか。
子どもが嫌いなら学校の先生は勤まらない・・・
あ、でも、高校生は半分大人?・・・まぁどうでもいいか。
とりあえず、愛実の娘の夏音(かのん)
の事も可愛くて仕方ない様子だ。
夏音は二ヶ月前に産まれたばかり。
そして今日は、滝邸での初のお披露目にやって来た。
私は出産時、産婦人科に行ったので夏音に会うのは二回目だが、
滝氏は初めて会う。
やって来た途端に夏音が泣き出して大変だったのだが、
ベテランお母さんの香穂さんが見事にあやしてくれた。
さすが、二児の母。
香穂さんの母親の顔を見て、驚いたと同時に、感心した。
母性というのは不思議なものである。
香穂さんの事を、要領がよく甘え上手な末っ子(姉がいる)
の女の子の見本のような人だと思っていただけに・・・
ギャップが大きい。
落ち着いた余裕のある赤子への対応は、優しさと愛に溢れていて、
母になるとは、こういう事なのだろうと思わせてくれた。
「寝てくれて良かったわね」
「香穂さんのおかげです。
初対面なのにご迷惑おかけしてすみません。
助かりました」
「うふふっ。最初の子って、全部初めてだから大変よね」
「そうなんです。毎日が初体験な事ばかりで・・・」
「私で良かったらいつでも相談して」
「いいんですか?!嬉しい!これだけは姉に相談しても、
親友だけど独身の友達に相談しても、頼りにならなくて・・・
ありがとうございます。よろしくおねがいします」
「話すだけでも、
楽になったり自分で何か発見できたりするからね」
「心強いです!」
「良かったね、愛実」
「おねーちゃんに子どもができた時は私が相談にのってあげるね!
香穂さんにしっかり教えてもらうから!」
「え、私も香穂さんの方が・・・」
「えぇー!なにそれー!」
「そういえばアイちゃんと美海はいくつ違うの?年子?」
「年子?!香穂さんひどい~ミッツ!三つ下です。
まぁおねーちゃん童顔だし・・・よく私が上に見られますけど」
「そうなんだぁ、ぱっと見美海の方が小さいし、
アイちゃんみたいに美人は大人っぽく見えるから」
す、すごい!香穂さんナイスフォロー!
「やだー香穂さん美人なんて~嬉しいです」
愛実は美人とか可愛いという言葉に弱い。
初対面なのに、会って一時間くらいしか経っていないのに、
香穂さんは愛実の弱点を見抜いた様だ。
愛実が分かりやすいだけだろうか?
「でも、中身はやっぱりおねーちゃんが上です。
ウチ両親共働きだったから家の事とか、
全部、小さい頃から何でもおねーちゃんがしてくれてました」
「そうなんだぁ」
「はい。だから私の母の味はおねーちゃんの料理なんです」
「そうなの?もしかして、美海って昔からこんなに上手だったの?
」
「まさかぁ~昔はすっごい失敗とかしてましたよぉ。
小学生の間は卵焼きがいつも形にならなくて、
スクランブルエッグでした。
なんていうか、うまいとか、へたとかじゃなくて、
おねーちゃんの味がホッとするんです」
「それはわかるなぁ。私の母の味はやっぱりかおるさんの味だな」
「あ、以前滝邸の家政婦をされていた?
私は会った事が無いんです。おねーちゃんはあるんだよね?」
「うん。春に」
「かおるさんは和食が上手なの。
だけど本人は意外とグラタンとかパスタとか洋食系が好きなの」
「えーそうなんですか!おねーちゃんグラタン得意なんですよぉ。
今日は作ってないけど」
「そぉなの?美海、来月はグラタンをよろしく!」
「そですね、寒くなって来たので焼きたての熱々のグラタン。
美味しい季節ですね」
「本当?私も来ようかな」
「うんうん、来て来て!」
「ところで香穂さんは・・・」
・・・
愛実と香穂さんは気が合うようだ。
会話がはずんでいる。
放っておいても二人で仲良くしてくれそうなので、
私はそろそろ片付けをしようかと立ち上がる。
ちらりと滝氏の方を見る。
いつのまにか、翔君と一緒に夏音をかこって仲良く
・・・日本酒ですか・・・。
本当に、いつのまに開けたんだろう。
気付かなっかた。
今日は長い夜になりそうだ。
つづく。。。
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MIMI -ミミと美海と滝さんについて-
第31話
「良いんですか?家族水入らずなのに・・・」
「何言ってるの?家族水入らずだからでしょう。
話せないからって逃げ回ってると、
いつまでも語学は身に付かないわよ。
ほら、来なさい」
命令形だ。これは逃げられない。
「はい」
渋々、滝氏と一緒にテーブルについた。
「そういえば、ジャンとレイは紹介したかしら?」
「あ、いえ、言葉が分からなくて・・・」
「そうね。主人はジャン、小さいのは息子のレイよ。
レイ、ご挨拶は?」
「レイです」
「えっ息子さん?
(にしてはそこら辺の女の子より可愛いよ!)
ええっ、日本語?!
(話せないんだと思ってた)
話せるんですか?」
「ええ、平均的な日本の五歳児並には話せるわ。
だからジャンと二人で先に帰ってもらったのよ。
フライト時間が長くて疲れたっていうし。
だけど一言も話さなかったみたいね」
咲枝さんは隣に座るレイくんに視線をおくる。
レイくんは上目遣いで咲枝さんと見つめ合って、
首を傾げながら(何の話しか分からないという顔で)
食事に戻る。そして一言。
「おいしいよ」
はぐらかしているのか、聞いてないのか、
マイペースなだけなのか・・・
咲枝さんは右の眉をつんっと上げて
「本当にジャンそっくり」
「かわいいねレイ」
滝氏は楽しそうである。
「漣、あなたの子もきっとあなたそっくりになるわよ。」
「そうかな?だといいね」
「どうかしら?」
ジャンさんは日本語の会話に興味も示さず、
おいしそうに食事に従事している。
時々、レイくんに何か話しかけたりしながら、
終始にこやかである。
女王咲枝様を優しく包み込むジェントルマンなジャン。
それにかわいくて賢そうな息子のレイくん。
おしゃれな人達は家族のあり方も洒落ているのかしらと、
思ってしまう。
きっとフランスにある自宅もきっとおしゃれなんだろうな・・・
なんて思っていたら、咲枝さんから
「美海、今度うちに遊びにきなさいね」
とのお声がかかった。
フ、フランスにですかー?!日本語通じませんよー!!
お、恐ろしすぎる・・・
決して声には出していないのだが、顔に出ていたのか、
「漣と一緒によ。一人でとは言ってないわ。良いわね、漣」
咲枝さんはしっかりと滝氏に念を押した。
「そうだね。来年の夏休みが良いかな」
なんて滝氏は言っていたが・・・
本気だろうか?
つづく。。。
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MIMI -ミミと美海と滝さんについて-
第30話
いつもよりずっと早くに帰って来てくれた滝氏は、
お姉様の咲枝さんと一緒だった。
駅で一緒になったそうだ。
咲枝さんは、なかなか迫力のある美人で、
スタイルに自信がないと着こなせないファッションだった。
派手な訳では無い。
シックなのにエッジが効いてるというのか・・・
これが噂のパリジェンヌか。
私?センス良くて当たり前だけど。それが、何?
と彼女の纏う空気が言っている。
「あなたが美海?私が漣太朗の姉の咲枝よ。
いつも漣のお世話をありがとう。
私たち、一週間ほどいるからよろしくね」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
初対面。いきなり呼び捨て。これはパリ流なのか?
咲枝さんだからか・・・?
しかし、なぜか嬉しい。
「美海、携帯出して。私のナンバー入れとくから」
「は、はい」
「まぁ、美海まだガラケーなの?」
「あ、特に不自由していないので」
「そうね、良い選択だわ。
でもフランスとこことで連絡を取り合うには少し不便ね。
漣のPCでスカイプで話せるようにしておいてね。
漣、ちゃんと教えとくのよ」
「うん、そうだね」
「はい、登録しといたから用がある時は電話して。
メールでも良いわ」
そういいながら私に携帯を返してくれた。
アドレス帳を確認してみた。
「咲枝お姉様」で、入力されていた。
ぶっっはぁ!と吹き出しそうになるのを必死で耐えた。
本気なのか、ウケ狙いなのか・・・
滝氏がそれを覗き込んで、笑った。
「くはっ、咲、相変わらずだね。あははは僕のと一緒だ」
「何?間違ってないわ。それに分かりやすいでしょう」
「うん、うん、そうだね」
そんなやり取りをしながら二人はリビングに入って行った。
咲枝さんは旦那様とお子さんを認めると抱き合って、
両の頬にキスを交わした。
同じように滝氏も彼らとあいさつをかわす。
会話は全てフランス語。
滝さん、フランス語も話せるのか・・・料理はできないのに・・・
見慣れたリビングが、突然外国になってしまった。
見慣れた滝氏も少し遠い存在に思えた。
いやいや、私は家政婦なんだから。
仕事仕事。
そう自分に言い聞かせて、強い疎外感を心の奥の方に追いやる。
気を取り直して準備を続ける。
もう、後少し。
ボゥルに入れて冷やして置いたサラダを、
冷蔵庫から出してお皿に盛りつける。
焼き上がったホワイトソースの間にカレーを挟んだグラタンを、
オーブンから取り出し、木製の鍋敷きの上に置いた。
後は・・・と考えながらボゥルを洗っていると、
「何か手伝おうか?」
と部屋着に着替えた滝氏が寄って来た。
ホッと胸の緊張が抜けて行く。
いつもなら、なんとも思わずすぐに
「大丈夫です。座っていて下さい」と返事をするのだけど、
その日は彼が寄って来てくれた事に安心し、
どうしてか嬉しくて、その気持ちが素直に出た。
「ありがとうございます。
じゃぁ、盛りつけ終わった物を運んでくれますか?」
「うん」
快く返事をして、よく手伝ってくれた。
最後のお皿を滝氏に渡した所で、
私は割烹着を脱ぎサンドイッチを持って、
自室に戻ろうと思っていたのだが
「美海さんも一緒に食べよう」
と滝氏に言われ、一瞬停止。
「いや・・・」それはどうでしょう・・・と、
返事を返す前に
「美海、ここにおいで」
咲枝さんからお呼びが掛かった。
「ね?」
と滝氏が笑う。
つづく。。。
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MIMI -ミミと美海と滝さんについて-
第29話
それにしても、愛実と香穂さんは人見知り同士で大丈夫かな?
などと心配しつつ、きっと翔君がなんとかしてくれる。
と期待して、当初の予定よりも倍の量の食事の用意をした。
少し前にも似たような事があった。
滝氏のお姉様、咲枝(さきえ)さんが来た時だ。
あの日、何の前触れも無く、咲枝さん一家はやって来た。
近くに住んでいるのであれば、そうそう驚きはしないのだが、
咲枝さんは、フランス在住である。
旦那様は、フランス人で、お子様が一人。
その事もその時初めて知った。
二人は咲枝さんが留学中に生徒と先生として出会い、
その後、数年経って、
咲枝さんが就職し、仕事でフランスに渡った時に、
偶然再会し・・・そういうことになったそうだ。
うーむ。なんてドラマチック。
さすがと言うか、現実はなんとかよりも・・・
さておき、咲枝さんは、年に一度帰って来たり来なかったり。
一人だったり、家族とだったり。
咲枝さん次第で決まるんだとか。
その際、事前に連絡をくれた事は一度も無い。
と、滝氏が言っていた。
そして、そのある日。
私が買い物から帰って来ると、
家の前を外国人の親子二人がウロウロしていて大変驚いた。
父親らしい大人の方の外国人が、
フランス語と英語で話しかけて来たがまったく分からず。
女の子らしいかわいいお子様は彼の後ろに隠れてしまい、
まるで私の方が不審者の様だ。
困った困った滝さん助けてー!
と心の中で叫んだ後、はっ、そうだ滝さんだ!
滝さんに電話しよう!
右手に携帯を持ち、左手の指をそろえて、
手のひらを彼の顔の前に突き出し、待った!のポーズで言った。
「滝さんに電話します。お待ち下さい」
もちろん日本語である。
ジェスチャーで分かってくれた様で、
滝氏に繋がるまでおとなしく待っていてくれた。
この時ほど、お願い!はやくでて!と滝氏に願った事は無かった。
ありがたい事に休み時間なのか、彼はすぐに出てくれた。
電話越しでの滝氏の通訳により、
彼らが滝氏のお姉様の旦那様とお子様である事が判明。
お姉様の咲枝さんは友人の所に出かけ、
二人が先に滝邸に到着したとの事だった。
せめて、前日・・・いや、買い物に行く前に連絡をください。
と言いたかったが日本語が通じない。
私は日本語しかしゃべれない。
「ごめんね。いつも本当に突然帰ってくるんだよ。
実家なんだから当たり前って思ってるんだ。
特にもてなしたりしなくていいからね」
と言われたが、そんな訳にもいかない。
特別な事はできなくても、食事やデザートくらいは用意したい。
ということで、二人分しか用意してなかった夕食の材料を、
慌てて買い足しに行った。
フランス人の親子の口に私の料理が会うかは分からないが。
何も無いよりは何かあったら良いだろうと、
せっせっと作ったのだ。
咲枝さんが帰って来るまでフランス人の親子は、
リビングですっかり寛いでいた。
まるで自分の家のように。まあ当然と言えば当然。
不思議な感じだが、滝氏のお義兄様なのだから。
窓際に置いた肘掛け椅子にミミが丸まって二人の様子を伺う。
全く動かないから、まるで目のついたクッションみたいだ。
自分からは近づこうとしない。
親子は良く似ていた。
肌も白いがなかなかに髪も白い。
目の色だけ違う。父親は青、子どもは茶色だった。
顔立ちはもちろん、日本人の子どもの、
おてもやんなかんじでは無く、
将来しっかり凹凸のできそうな外国人顔である。
五歳くらいでとてもかわいい。
シャイなのか父親にべったりくっいて離れ無い。
たまにこっそりと探るようにこっちを見る。女の子だと思う。
白に近いストレートの金髪のボブ。
白地に赤のハート柄のブラウスにヒッコリーのオーバーオール。
スゥェードのキャメルのショートブーツ。
アンクルのあたりに同じ素材のフリンジがついていて、
とても可愛いブーツ。とっても似合っている。
もちろん、玄関で脱いでもらった。
あぁ!なんってかわいいんだ・・・!抱きしめたい。
が、今はそれどころじゃない。
咲枝さん一家三人と滝氏と私。・・・
私は簡単なサンドイッチでいいか。
残り物でできるし。咲枝さんは、外で食べて来るかもしれないが、
分からない。聞きたいが・・・言葉が・・・
人数分作る方が早い。
滝氏も早めに仕事を切り上げて帰って来てくれると言っていたし。
それまでに人数分・・・
必死だった。
今思い出しても、よくがんばったと思う。
それ以来買い物の時は少し多めに買うように心がけている。
準備中、親子でキッチンに寄って来て、何か言うので、
出しておいたお茶かお菓子が足りないのかと思い、
滝氏用に作っておいたプリンを出すと、「NO、NO」
と手と首を横に振った。
違ったらしい。
その場で固まってしまった私に、
とてもゆっくりと「メィアイヘルプユー?」
とフランス人の父親(いや、滝氏のお義兄さんというべきか?)
が言った。
3秒くらい彼とにらめっこして、やっと意味が分かった。
良い人だ。
と思ったが私は英語も話せないので、何も頼めない。
元々、人に頼み事をするのも苦手だし。
そして、お断りの言葉も思いつかない。
その時は残念ながら、「NO」の一言すら浮かばなかった。
とりあえずジェスチャーで分かってもらえるはずだと、
頭を大きく横に振りながら
「いえっ!大丈夫です」と日本語で返した。
すると、ダイジヨウブ?と彼はカタコトで返事をくれた。
おぉ!ダイジョウブが分かるらしい!
「だいじようぶ!だいじょうぶ!」
と私が繰り返すと、ニコッと笑って、「Okey」
なんちょらかんちゃら~
(何か言っていたがオーケーしかわからなかった)
と言ってリビングに戻って行った。
つづく。。。
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MIMI -ミミと美海と滝さんについて-
第28話
「みぃみぃ~おやつない?」
と言ってキッチンに入って来たのは香穂さんだ。
今日は滝氏への『業務報告の日』で、朝食の時から来ていた。
業務報告自体は滝氏の書斎でするのだが、
いつも飲み物や食べ物を求めて、わざわざ母屋までやって来る。
毎月一回は必ず来ているのだが、
こうして母屋まで足を運ぶようになったのは、
ここ半年くらいの事だ。
それまでは私に遠慮していたらしく、
書斎に来て、母屋に寄らずに帰って行っていたそうだ。
私は来ている事さえ知らなかった。
ある日
「ご挨拶が遅くなってごめんなさい。兄(滝氏)が、
日曜日は町田さんは一応お休みの日だと言っていたので・・・
どうかしらと思って・・・」
と、初対面の時に言っていたが、
気付いたらなんだか友人のように親しくなった今になって、
分かったのは、香穂さんはタダの人見知りだ。
そして末っ子だからか、甘えるのが上手い。
よく愛実みたいだと思う。
香穂さんの方が私より年上なのだが。
とに、かく、今となっては朝ご飯に間に合うように来て、
夕食まで食べて帰って行く。
そして最近はもう、
書斎にいる時間よりもこっちに居る時間の方が長い。
どころか、書斎に一瞬顔をだして、
あとはずうっと母屋にいる時もある。
もちろん、来る前にメールが届く。
「今月は20日の日曜日に行くから、美海絶対に家に居てね」
と言った具合に。
毎回必ず日曜日なのは、滝氏の学校の休みが日曜日だからだ。
何の業務報告かというと、
滝氏のご両親の持っていたアパートの経営についてだそうだ。
香穂さんは結婚していて子どももいる。
女の子が二人。小学6年生と2年生。
フルネームは、丹羽香穂子さん。
旦那様は小さな不動産会社を経営している。
旦那様のお父様が開業し、二代目としてがんばっているそうな。
滝家のアパートはオーナーは滝氏らしいが、
管理、運営は香穂さんの旦那様、
丹羽氏の不動産会社に任せている。
(全て香穂さんからの情報で詳しい事は分からない)
で、業務報告には、忙しい旦那様や数少ない従業員の代わりに、
香穂さんが一人でやって来るらしい。
香穂さんは元税理士で、
今は旦那様の会社で会計経理全般を担っているそうだ。
ちなみに、私はその会社の社員として働いている事になっている。
滝家の財産管理は香穂さんの仕事で、
私のお給料も香穂さんが私の銀行口座に振り込んでくれる。
なのでもちろん、通帳には丹羽不動産の名前が記帳される。
とはいえ、本当は一ヶ月に一回来る必要も無く、
メールや電話で済む事も多いようなのだが。
子どもも旦那様も置いて出かける(実家に寛ぎにくる)事が、
彼女にとって楽しみの一つのようで、
用が無くても月に一回必ずやって来る。
滝家の兄弟はとても仲が良い。
香穂さんはよく
「ウチは三姉妹だからバランスが良いの」と言う。
初めて聞いたときは驚いた。
(滝さん実は女?ま、まさか、お姉?イヤイヤ・・・)
けれど、なんとなく頷ける。
そのくらい仲が良いという事のようだ。
それに、滝氏は男々していないというか、男らしくな・・・
否、やわらかくてやさしい雰囲気だ。よしっ。
「美海~ねぇねぇ、漣ちゃんにもさぁ、何かおやつある?
私持って行ってあげるよ」
香穂さんは滝氏の事を『漣ちゃん』と呼ぶ。
「今日はヨーグルトがありますよ。器に盛りますね。
少し待っていて下さい」
「うん、待ってる」
ガラスの器にヨーグルトを、
その上にブルーベリージャムをのせる。
2つ用意して、スプーンも2つ一緒にお盆にのせた。
「美海ぃ、美海の分は?」
「私は今から夕食の準備をしますから。
おやつはお二人でどうぞ。
香穂さんも食べて帰られるでしょう?」
「もちろん。じゃぁ仕方ないから漣ちゃんと二人で食べるね」
「あ、待って、お茶はいい?まだ向こうにありますか?」
「あるある大丈夫。ありがと、美海。あ、ねぇクッキーない?」
「ありますよ」
クッキーとヨーグルトを持って、
香穂さんは楽しそうに書斎に行った。
香穂さんは、何か手伝おうとかいう気持ちは更々無い。
作ってもらう、やってもらうのが好きな人だ。
私としては人に指図したり頼んだりするのが不得手なので、
とても助かる。
「何か手伝おうか」なんて言われると、私は困る。
断るにも、どう断れば失礼が無いか悩むし、
手伝ってもらうのはありがたい事なんだけれど、
自分のペースが崩れるので・・・困る。
携帯が鳴った。愛美かなと思って出たら、滝氏だった。
「今から翔太君と愛実ちゃんが赤ちゃんを連れてくるみたい。
今電話があってね。
香穂も夕食を一緒に食べてから帰りたいって言ってるけど、
大丈夫かな?大変なら、香穂は帰すけど」
えーやだー赤ちゃん抱っこしたいしー
と香穂さんの声が電話の奥から聞こえる。
「はぁ、となると五人とイチ赤ちゃんですね。
賑やかな夕食になりますね」
「ごめんね、お願いできる?」
「大したものは作れませんが、
おなじみの物をたくさん作りますね」
「ありがとう。よろしくね」
電話を切ってため息を一つ。
ふうー。
よりに寄ってなぜ今日やって来るのだ、我が妹よ。
来週でも良いじゃないか。
と後で言ってやろうと決めて、料理に取りかかった。
つづく。。。
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